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投資で失敗しないノート術|日本大学 三井秀俊教授に学ぶ、資産形成を支える記録方法とは?

資産形成の基本は「三井流ノート術」から

投資に興味を持つと、日々のニュースやインターネットの情報が自然と目に入るようになりますが、どう判断していいかわからないことが多くあります。今日上がった株が明日も上がるのか、為替が動くときの影響など、感覚に頼って投資を続けると、どうしても感情や焦りが投資判断に入り込み、思わぬ損失を出してしまうことも多いです。

そこで今回の記事では、金融のプロである大学教授・三井秀俊先生の「三井流ノート術」をご紹介します。三井先生は「投資の成否は、取引をどう記録し、振り返るかにかかっている」と力説します。このノート術は、資産形成を成功させるために投資を「感覚的なもの」から「冷静な判断に基づく理性的なもの」へと導いてくれるものです。

「三井流ノート術」の実践で期待できる効果は次のとおり。
・投資の目的や判断基準を明確にすることで、焦りや不安から解放される

・取引結果を振り返り、成功や失敗のパターンを理解できるようになる

・金融市場のパターンやトレンドに対して、冷静な視点を持てるようになる

「ノートに記録を残し続けることが、投資家としての成長につながる。さらに、自分だけの『投資ガイド』を手にすることで、日々の感覚的な判断から解放され、冷静に長く投資を続けていける自信もつく」と三井先生は話します。

取材では、ノートの具体的な使い方や、資産形成において記録することがどのような助けになるのかを、専門家の視点で詳しくお話いただきました。今すぐにでも始められる「三井流ノート術」、この記事で学び、実践してみてください。

この記事の取材協力者

三井 秀俊

日本大学・経済学部 ・教授

三井 秀俊

HIDETOSHI MITSUI

東京都立大学助手、日本大学経済学部専任講師・助教授・准教授を経て、2015年より同大学経済学部教授。

この間、千葉大学大学院・一橋大学大学院・筑波大学大学院・埼玉大学大学院・上智大学大学院・電気通信大学・東洋大学非常勤講師、埼玉大学大学院客員准教授・客員教授、日本大学経済学部経済科学研究所長、デューク大学客員研究員などを歴任、博士(経済学)。
株式市場・デリバティブ市場・外国為替市場の計量分析を専門としている。
著書に『オプション価格の計量分析』、『ARCH型モデルによる金融資産分析』(以上 税務経理協会)などがある。

URL: https://www.eco.nihon-u.ac.jp/about/seminar/mitsuihidetoshi/

  • 著書|オプション価格の計量分析
  • 著書|ARCH型モデルによる金融資産分析

三井流ノート術で資産形成を成功へ導く

ー 三井先生、資産形成で成功するためには、まず“記録をつける”ことが大事だとおっしゃっていますが、それはなぜでしょうか?

投資においては、ただ感覚に頼るのではなく、しっかりと「記録をつけること」が成功のカギです。私が提唱したいノートを活用した資産形成は、投資判断に根拠をもたせるために、取引の経緯を詳細に記録する習慣を作るものです。投資に際して、多くの方が感情に流されてしまいやすいのは自然なことですが、これが投資判断を曇らせ、同じ過ちを繰り返してしまう要因にもなります。

例えば、「なぜこの株を購入しようと決めたのか?」「どのタイミングで売却を選んだのか?」といった点をノートに記録することで、投資の判断にしっかりとした根拠をつけ、次回以降も冷静に判断できるようになります。このプロセスを通じて、感覚的な判断から、データに基づく理論的な投資が可能になります。

投資は「長期的にどのように資産を増やしていくか」を考えるものです。短期的な結果で一喜一憂するのではなく、記録をつけて冷静に判断を見直し、成長の糧にしていく姿勢が大切なのです。

三井流ノート術の実践法:取引履歴をどう記録するか

ー 三井先生ご自身は、ノートにどんな項目を記録していますか?

私がノートに記録しているのは、主に「理由」「タイミング」「結果」「感情」の4つです。まず、「理由」と「タイミング」を明確に記録します。「この株を買った理由は何か」「なぜ今このタイミングで買いを選んだのか」といった、判断基準とその時の市場状況を合わせて書き残すようにしています。たとえば、「米国の金利が引き上げられ、円安傾向で輸出企業の株価が上がりやすいと考えた」など、経済状況を背景に判断基準を明確にしておくと、後で振り返りやすくなります。

次に「結果」と「感情」も記録します。たとえば、「思った通りに株価が上がった」「予想外の動きで損失が出た」といった結果と、その時の感情、「売却の決断が早すぎて後悔した」「持ち続けていれば利益が出たのではないか」などの思いも記録します。これを繰り返すことで、自分の判断のパターンや心理状態が可視化され、投資時の感情の起伏も見えるようになるのです。

ー 成功した時だけでなく、失敗した時も記録するのがポイントですね。

そうです。むしろ、失敗の記録こそが重要です。投資での失敗は誰にでもあるものですが、それをどう生かすかが鍵となります。失敗を振り返ると、「この状況では焦って売らない方が良い」「こういった場面で判断を急がない方が良い」といった傾向や対策が見えてきます。人には思考の癖があるものです。過去の失敗から学ぶことで、次の取引では同じミスをしないようになり、投資家としてステップアップできるはずです。

また、ノートに失敗の記録を残しておくと、冷静な判断力が養われます。投資は一瞬一瞬の感情に流されやすいものですが、記録は感情をコントロールし、理性的に判断を行うための強力なツールにもなりますよ。

感情に流されない判断力を養う:ノート術で冷静さを保つ

ー 記録をつけることで冷静さが保てる、ということですが、どうして投資判断に感情が入りやすいのでしょうか?

人間の脳には、生存本能に基づいた「危険を避けたい」という感情が備わっています。投資で損失が出る場面は、脳にとっては「危険信号」のようなものです。すると脳は「すぐにリスクから逃げたい」という衝動を感じ、冷静さを失ってしまいやすくなるのです。

投資には冷静な判断が求められますが、脳のこうした本能的な反応が感情に作用して「売りたい」「逃げたい」という行動に出やすくなります。しかし、ノートに自分の行動を記録し、過去の経験を振り返ることで、このような感情的な判断にブレーキをかけることができます。「同じ状況で過去にも焦って売ってしまい、後悔した」という記録があれば、同様の場面で冷静さを保ちやすくなるでしょう。

ー ノート術で、脳の反応に対して適切な対応がしやすくなるのですね。

ええ、そうです。投資においては損失を避けたいという感情は非常に強力に働くものです。しかし、ノートに記録を残しておくことで、思わしくない状況でも「これは本能的な反応だ」と自分の感情を客観視できるようになりますよ。

株式・為替市場の特徴を捉える:パターンとトレンドの記録

ー 特に初心者の方が市場の特徴を理解するためには、どのように学んでいけば良いでしょうか?

三井先生:初心者の方が市場の特徴を理解するためには、まず基本的な知識を少しずつ積み重ねていくことが大切です。市場の仕組みや、価格変動に影響を与える要因を学ぶためには、信頼できる書籍やコンテンツが役立ちます。たとえば、林輝太郎氏や相場師朗氏の書籍は、投資の本質を理解しやすい形で解説しているため、初心者でも理解を深めやすいです。また、YouTubeなどの動画を活用するのも効果的ですが、情報が偏っていないか、根拠がしっかりしているかを意識して取捨選択をすることが重要です。

ノートを活用して市場の動きを掴むためには、日々のニュースや市場の変動を観察し、その時々の取引を記録するのがよいでしょう。取引記録には、「どのような要因があって価格が動いたのか」「その時の経済ニュースは何か」を書き留め、定期的に振り返ると、少しずつ市場の傾向が掴めてきます。

また、学んだ知識や掴んだ傾向は、ノートで実体験と結びつけられるとさらに良いですね。たとえば、過去の取引記録に「このときは為替が円安に振れ、輸出企業の株が上がった」と記録し、その理由に「アメリカが金利を引き上げたため」と付け加えると、学んだ知識が実際の市場の動きと結びつき、さらに納得感が増します。この繰り返しが、初心者の方にも「自分なりの投資判断ができる力」を養ってくれます。

ここまでくると、ノートはただの記録から、自分の投資ガイドブックのようになります。余力がある人は、知識を得たらそれを書き加え、次にどのような場面で役立つかを考えながら記録してみましょう。投資活動に即した理解が得られ、冷静で客観的な判断力を養うことができますよ。

AIの活用と感情管理:投資の新たなツールとしてのAIとその限界

ー 最近ではAIの予測を使って投資をする人も増えていますが、先生のご見解はいかがですか。

AI予測の技術は確かに進化しており、投資の参考にもなると感じています。しかし、AIは過去データに基づいて予測するものです。ですから、全く新しい要因が発生すると、必ずしもその予測通りにはいかないという限界もあるのです。たとえば、大きな自然災害や突発的な国際情勢の変化が起こった場合、AIの予測と実際の市場の動きが大きく異なることもあります。

そのため、AIを過信するのではなく「判断材料の一つ」として冷静に活用することが大切です。私自身も、AIが出す予測を参考にしつつ、自分のノートに記録してある過去の判断と比較して、最終的な投資判断を行っています。AIが予測した結果が実際にどうだったのか、予測が外れた理由は何かといった点も、すべて記録して振り返ることで、次に活かすことができるはずです。

ー AI予測と実際の結果を記録し比較することで、自己判断の精度も高まりそうですね。

そうですね。AIが示した予測と実際の結果を記録し、それが当たったのか外れたのか、なぜそうなったのかといった理由も一緒に記録しておくと、AI活用の精度も上がりますし、自分の判断基準もより明確に見えてきます。AIの予測を単に受け入れるのではなく、その予測が自分の経験とどう一致しているかを把握していくと、投資の判断力がさらに養われていきますよ。

他者との共有で成長するノート術:SNSでのアウトプット

ー 三井先生はSNSにノートの内容を投稿するのも良いとおっしゃっていますが、どのような効果があるのでしょうか?

SNS投稿は、他の人に見られる力を借りて、アウトプットの効果をより高めることができます。他者に公開することを意識すると、ノートの内容をより整理し、丁寧に書くようになりますよね。投稿する際に内容を振り返るプロセスで、改めて自分の判断を冷静に見直せますし、他者にわかりやすく説明しようとすることで、自分の理解もより深まるんです。これが、「自分の投資行動を冷静に振り返る」ためのひとつの方法です。

たとえば「今日は○○というニュースがあったため、この株を購入しました」「過去の記録を見て、円安の影響で輸出関連株が上がる傾向があると判断しました」といった形で投稿すると、「他人に説明する」つもりで改めて自分の投資を振り返ることができ、冷静な判断ができるようになるのです。また、数ヶ月前の投稿を見返して、自分の判断がどう変わったかを確認することもできます。

ー 他人に見せるつもりで書くことで、より冷静な判断ができるというわけですね。

SNSに公開することで、自分の行動を振り返りやすくなり、「次の投資では同じミスをしないようにしよう」という客観性も強まります。SNSには多様な意見があり、周囲に流されやすくなる面もありますが、うまく活用することで自分の考えを整理するツールとしても役立ちますよ。

まとめ:「三井流ノート術」で投資の未来を築く

ー 最後に、資産形成に向けて読者にメッセージをお願いします。

資産形成において最も大切なのは、「冷静さ」と「自分の軸」を持つことです。投資の場面では、一時の感情に流されやすいものですが、長期的に成功するためには、日々の取引をきちんと記録し、自分の考えを振り返ることが必要不可欠です。私が提案している「ノート術」は、その冷静さを保つための強力なツールです。感情に左右されず、理性的に判断するための道具として、ぜひ活用していただきたいと思います。

投資は「学びの連続」です。成功も失敗も全てを糧にして、そこから学ぶ姿勢を持つことが重要です。自分自身がどのような判断をし、どう感じたかをノートに書き留め、常に自分を成長させるという意識を持ち続けてください。最初はうまくいかないこともあるかもしれませんが、積み重ねていくことで、必ず自分なりの投資スタイルが見えてくるはずです。

資産形成は一朝一夕でできるものではありませんが、日々の努力と冷静さを持って取り組めば、将来の安心を築く大きな力になります。ぜひ、ノートとともに資産形成の道を切り開いていってください。

この記事の取材協力者

三井 秀俊

日本大学・経済学部 ・教授

三井 秀俊

HIDETOSHI MITSUI

東京都立大学助手、日本大学経済学部専任講師・助教授・准教授を経て、2015年より同大学経済学部教授。

この間、千葉大学大学院・一橋大学大学院・筑波大学大学院・埼玉大学大学院・上智大学大学院・電気通信大学・東洋大学非常勤講師、埼玉大学大学院客員准教授・客員教授、日本大学経済学部経済科学研究所長、デューク大学客員研究員などを歴任、博士(経済学)。
株式市場・デリバティブ市場・外国為替市場の計量分析を専門としている。
著書に『オプション価格の計量分析』、『ARCH型モデルによる金融資産分析』(以上 税務経理協会)などがある。

URL: https://www.eco.nihon-u.ac.jp/about/seminar/mitsuihidetoshi/

  • 著書|オプション価格の計量分析
  • 著書|ARCH型モデルによる金融資産分析
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