米国債とは?基本の仕組みと3つの特徴

米国債はアメリカ政府が発行する債券で、国の資金調達手段の1つです。
米国債は世界的に高い信用度を誇り、世界中の投資家が安全資産として保有しています。
ここでは、米国債の基本的な仕組みと特徴を紹介します。
米国債の定義と発行主体
米国債は、アメリカ合衆国政府が資金調達のために発行する債券で、投資家は政府にお金を貸す形で購入します。
発行主体は米国財務省で、利息の支払いと元本の償還は政府が法的に保証しているため、信用リスクが極めて低いのが特徴です。
この安全性の高さから、米国債は「世界で最も信頼される債券」と呼ばれ、中央銀行や機関投資家、個人投資家がリスクヘッジや資産運用に広く利用しています。
また、米国債はドル建てで発行されるため、国際的な外貨準備としても重要視されており、特に世界経済が不安定な時期には安全資産として需要が高まります。
こうした信用力の高さと流動性の豊富さが、米国債を好む投資家にとって魅力的な選択肢になっているのです。
金利と償還の仕組み
米国債には購入時に固定された利率が設定され、半年ごとに利息が支払われ、償還期限に達すると、額面通りの元本が返済される仕組みです。
償還期間は債券の種類によって異なり、短期国債(T-Bills)は1年以内、中期国債(T-Notes)は2〜10年、長期国債(T-Bonds)は20〜30年です。

一般的に、償還期間が長いほど金利変動の影響を受けやすく、長期債は価格が大きく上下するリスクがあります。
一方で、短期債は価格変動リスクが比較的小さく、金利上昇局面でも再投資しやすいです。
利息と元本が保証される仕組みは、長期的な安定収入を求める投資家に適しており、金利や市場動向に応じて短期・中期・長期の債券を組み合わせる戦略も有効です。
安全資産としての特徴と世界的信用度
米国債は、元本と利息がアメリカ政府によって保証されるため、デフォルトリスクが極めて低い安全資産として位置づけられています。
金融市場が不安定な状況でも、価格の下落幅が比較的限定的であることから、リスク回避型の投資家に人気があります。
また、米国債はドル建てで発行されるため、世界中の中央銀行が外貨準備として保有しており、国際金融市場での流動性も非常に高いです。
さらに、米国債の市場規模は世界最大級であり、発行量も安定しているため、売買しやすく資金の出し入れが容易です。
このように、高い信用力、流動性、国際的な需要が揃っていることが、米国債の投資対象としての魅力を支えているのです。
なぜ重要?インフレと米国債の密接な関係性

米国債は安全資産として知られていますが、インフレの影響を受けやすいという特徴があります。
物価上昇に伴い債券価格が下がったり、実質利回りが変動したりするため、投資家はインフレ環境下でのリスクや対応策を理解しておくことが重要です。
ここでは、米国債とインフレの関係を詳しく解説します。
インフレ上昇が債券価格に与える影響
インフレが上昇すると、将来受け取る利息や元本の実質価値が目減りするため、既存の固定金利債券の価値は下がります。
例えば、年利2%で発行された米国債を保有している場合、物価が急上昇すると、実質的な利回りは低下します。
また、市場金利もインフレを反映して上昇する傾向があるため、既存の低金利債券は市場で割安に取引されることになるのです。
このため、短期的には含み損が発生する可能性が高く、特に長期債は価格下落の影響を受けやすい傾向にあります。
一方、金利が上昇すると新発債の利回りは高くなるため、債券市場全体で価格調整が起き、投資家はインフレと金利の動向を注視する必要があるのです。
実質利回りと名目利回りの違い
債券の利回りには「名目利回り」と「実質利回り」があります。

名目利回りは、債券が定めた固定利率そのものの収益を示すのに対し、実質利回りはインフレ率を考慮して算出される、購買力ベースでの利回りです。
例えば、年利2%の債券を保有している場合、インフレ率が3%なら実質利回りは-1%となり、実質的には資産が減っていることになります。
逆にインフレ率が1%であれば、実質利回りは1%となり、購買力は増加します。
債券投資では、名目上の利息だけでは資産価値の増減は分からず、インフレ環境下での投資判断に直結するため、実質利回りを理解することが重要です。
物価連動国債(TIPS)の仕組み
TIPS(Treasury Inflation-Protected Securities)は、米国財務省が発行する物価連動国債で、元本が消費者物価指数(CPI)の上昇に応じて調整されます。
利息は元本に対して固定利率で支払われるため、インフレが上昇しても実質的な購買力を維持できるのが特徴です。
例えば、元本が100ドルのTIPSで利率1%の場合、CPIが2%上昇すれば元本は102ドルに増え、利息も増加します。
逆にデフレ局面では元本は減少しますが、償還時には最低元本保証があるため、名目元本を下回ることはありません。
TIPSはインフレリスクヘッジとして有効で、特に長期的に資産を守りたい投資家に適しています。
インフレ局面で注目される理由|米国債投資のメリット

インフレ環境下では、物価上昇による資産価値の目減りや金利変動リスクが懸念されます。
しかし、米国債は安定性の高さや利回りの確保、株式などリスク資産との相関が低い点など、インフレ時でも活用できるメリットがあります。
ここでは、インフレ環境下での米国債投資のメリットを3点紹介します。
1つずつ紹介します。
安定性と利回りの確保
米国債は米国政府が発行する債券であり、元本と利息の支払いが保証されているため、非常に高い安全性を誇るメリットがあります。
インフレが進む局面でも、定期的に利息収入を得られることから、安定したキャッシュフローを確保でき、銀行預金と比較すると利回りが高く、低リスクで運用する手段として有効です。
また、長期保有すれば金利変動の短期的影響を受けにくく、投資元本の安全性を保ちながら計画的に資産形成が可能です。
インフレ時でも、相対的に安定した投資対象として活用できます。
株式などリスク資産との相関が低い
米国債は、株式や商品などのリスク資産とは相関が低いため、ポートフォリオ全体の安定化に役立ちます。
株価が下落する局面でも、米国債は比較的価格変動が小さいため、資産全体の損失を抑える効果があります。
特にインフレや金利上昇で株式市場が不安定になる場合、米国債への投資はリスク分散手段として重要です。
債券と株式を組み合わせることで、インフレ環境下でも安定したリターンを目指すことができるメリットが挙げられます。
長期保有で複利効果が得られる
米国債を長期で保有すると、定期的に得られる利息を再投資することで複利効果が働くメリットがあります。
インフレ時でも、利息を積み立てることで資産価値の減少をある程度カバーすることが可能です。
特に物価連動債(TIPS)を組み合わせれば、元本が物価に応じて調整されるため、実質利回りを維持しやすくなります。
長期保有戦略により、市場の短期的な変動や金利上昇の影響を平準化でき、インフレ環境でも安定した資産運用が可能となります。
知っておきたい注意点|インフレ環境下での米国債投資のデメリット

米国債は安全性の高い資産ですが、インフレ環境下では注意すべきデメリットも存在します。
ここでは、インフレ時の米国債投資のデメリットを3つ紹介します。
1つずつ紹介します。
インフレで実質価値が目減りする
米国債は名目利回りが固定されているため、インフレが進行すると利息や元本の購買力が相対的に低下するデメリットが挙げられます。
例えば、年利2%の債券を保有していても、インフレ率が3%に達すると実質的な利回りはマイナスとなり、資産価値は目減りします。
これは、長期債で名目上の利息収入があっても物価上昇に追いつかず、実質的な運用効果が低下するリスクがあるためです。
インフレ環境下では、元本の安全性だけでなく実質利回りにも注目する必要があります。
金利上昇局面で債券価格が下落する
市場金利が上昇すると、既存の低金利債券は割安となり、価格が下落するデメリットが挙げられます。
長期債の場合、金利上昇による価格下落幅は大きく、保有中に売却する際には評価損が発生する可能性があります。
例えば、利回り2%の債券を保有している状態で市場金利が3%に上昇すると、同条件の新発債券に投資した方が有利になるため、既存債券の市場価値は下がります。
インフレ局面では金利上昇リスクと債券価格の逆相関を理解し、短期売買には注意が必要です。
短期保有の場合のリスクが増大する
短期で売買する場合は、評価損を抱える可能性が高く、インフレ率が利回りを上回ると実質的な損失になることもあります。
また、再投資のタイミングによって利息収入が減少する場合もあるため、短期的な利回り確保が難しくなります。
インフレ時には、投資期間を見極め、短期売買よりも長期保有や分散投資の戦略が求められるのです。
株式・金・不動産と比較|米国債の立ち位置と役割

米国債は安全性や利回りの面で魅力的ですが、他の投資商品と比べることで、より自分に適した投資戦略を考えることができます。
日本国債や株式、TIPSやREITなど、資産クラスごとに特徴やリスクは大きく異なります。
ここでは、米国債と主要な投資商品の違いや、インフレ環境での役割について詳しく解説します。
米国債と日本国債の利回りの違い
米国債と日本国債を比較すると、利回りと信用度に違いがあります。

2025年9月時点では、米国10年国債の利回りは約4%前後であるのに対し、日本国債の10年利回りは0.5%前後と低水準です。
このため、利息収入を重視する投資家にとって、米国債の方が魅力的と言えるでしょう。
一方、信用度に関しては両国とも非常に高く、米国債は世界の基軸通貨であるドル建て、日本国債は国内市場で安定的に取引されており、安全資産としての評価は共に高いです。
ただし、為替リスクを伴う米国債は円換算での損益が変動する点に注意が必要です。
米国債と株式のインフレヘッジとしての特徴
株式と米国債は、インフレ環境でのパフォーマンスやリスク特性が異なります。

株式は企業の価格転嫁力によってインフレをある程度反映しやすく、インフレヘッジとして期待できますが、短期的には価格変動が大きく、景気後退時には大幅下落のリスクもあります。
一方、米国債は利息収入が固定されるため、価格変動はあるものの、景気や市場の急変動に対して比較的安定しています。
インフレ期には株式でリターンを狙いつつ、米国債で資産の安定性を確保する組み合わせが有効です。
米国債とインフレ連動資産(TIPS・REIT)の比較

TIPSは消費者物価指数(CPI)に連動して元本や利息が調整されるため、インフレリスクを直接軽減できます。
一方、REITは賃料収入や物件価格の上昇がインフレに連動することが多く、分配金による収益も期待できます。
ただし、REITは株式市場の影響も受けやすく、米国債ほど価格安定性はありません。
これに対し、通常の米国債はインフレヘッジ性能は限定的ですが、元本と利息の信頼性が高く、安全性重視の資産として位置づけられます。
インフレリスクを抑える!米国債の3つの投資方法

米国債は安定した利息収入が魅力ですが、インフレ環境下では実質価値が目減りするリスクがあります。
そこで、インフレリスクを抑えながら米国債投資を行うには、投資対象や期間、運用手段を工夫することが重要です。
ここでは、具体的なリスク軽減方法を3つ紹介します。
・投資期間や債券の種類を分散する
・ETF・投資信託で少額分散投資する
1つずつ確認しておきましょう。
インフレ連動債を組み入れる
TIPSは米国の消費者物価指数(CPI)の変動に合わせて元本が自動的に調整され、インフレが上昇すると元本が増加します。
利息も調整後の元本に対して支払われるため、実質的な購買力を維持できる点が大きな魅力です。
ただし、デフレ局面では元本が減少することもあるため、全額をTIPSに投資するのではなく、通常の米国債と組み合わせてバランスを取るのが理想です。
例えば、ポートフォリオの30〜50%をTIPSに配分することで、価格変動を抑えつつインフレ対応力を高める戦略が有効でしょう。
投資期間や債券の種類を分散する
インフレや金利変動の影響を1本の債券に集中させると、価格下落や利回り低下のダメージを一度に受けてしまいます。
特に金利が上昇する局面では、既に保有している債券の価値が下がりやすく、単一期間に偏った投資は大きな損失リスクを伴うのです。
金利が上昇すれば債券価格は下落するため、投資期間を複数に分散することでリスクを抑えられます。
短期債(T-Bills)は償還までの期間が1年以内と短く、価格変動が小さい一方、長期債(T-Bonds)は10年以上で、利回りは高いものの金利上昇に弱いという特徴があります。
これらの債券を組み合わせて保有することで、再投資のタイミングを分散し、金利変動リスクを平準化することが可能です。
ETF・投資信託で少額分散投資する
個人投資家が米国債を1本ずつ購入するには、最低投資額が高く、為替手続きも必要なため、米国債をまとめて運用するETF(上場投資信託)や投資信託を活用する選択肢もあります。
代表的なETFには「iShares 7-10 Year Treasury Bond ETF(IEF)」や「iShares TIPS Bond ETF(TIP)」などがあり、少額から米国債全体に分散投資できます。
ETFを使えば、個別債券の購入や為替取引の手間を省けるだけでなく、金利変動に応じて柔軟に売買できます。
また、投資信託タイプでは自動的に再投資や期間分散を行ってくれるため、初心者でもリスクを抑えながら、資産の管理が容易となります。
インフレ期には、TIPS連動ETFや短期国債ETFを組み合わせることで、リスクを抑えながら実質利回りを高める戦略が効果的です。
ドル建て資産を保有することで、円安局面では為替差益も得られる可能性があるのでおすすめです。
今後どうなる?米国債の見通しとインフレ動向を読み解く

2025年現在、米国では利下げ局面に転じつつあり、インフレ率の鈍化と経済成長のバランスが注目されています。
FRBの政策金利の動向は、米国債の利回りや価格に直結するため、今後の投資判断において極めて重要です。ここでは、米国債の今後を見通す上で欠かせない3つの視点を解説します。
・世界経済とインフレの影響
・投資家が押さえておくべき戦略ポイント
1つずつ確認しておきましょう。
FRBの金融政策と金利動向
2025年9月のFOMCでは、FRBが政策金利を0.25%引き下げることを決定し、昨年末以来の利下げ局面に入りました。
これは、インフレ率が鈍化しつつも、雇用市場にやや軟化の兆しが見え始めたことを受けた判断です。
FRBの「ドットチャート(政策金利見通し)」によると、年内にあと2回の利下げが想定され、2026年以降も段階的な緩和が見込まれています。
金利の引き下げは、既存の高利回り米国債の価値を押し上げる一方、新規発行債の利回りを低下させる要因になります。
つまり、投資家にとっては「金利が高いうちに長期債を保有する」戦略が有利に働く局面と考えている方も多いです。
今後は、インフレ率や雇用統計、FRBの発言などを注視しながら、金利サイクルの転換点を見極めることが重要です。
世界経済とインフレの影響
例えば、中国や欧州での景気減速が進むと、投資資金がリスク資産から安全資産である米国債へと流入し、価格が上昇する傾向があります。
一方で、原油価格の上昇や地政学的リスクによってインフレ懸念が高まると、米国債の売り圧力が強まるケースも見られます。
また、インフレ率が目標の2%を上回る状態が続くと、FRBは再び利上げを検討する可能性があり、その場合は債券価格が下落するリスクが高まります。
こうした国際的・物価的な要因は短期的に金利を変動させるため、米国債投資においては「インフレ率」「コモディティ価格」「為替動向」を総合的に分析することが欠かせません。
投資家が押さえておくべき戦略ポイント
今後の米国債投資で重視すべきポイントは、金利サイクルの変化に柔軟に対応するポートフォリオ戦略です。
利下げ局面では長期債が値上がりしやすい一方、利上げ再開時には短期債やインフレ連動債(TIPS)へのシフトが有効です。
また、ETFや投資信託を通じて複数年限・複数種類の債券に分散投資することで、金利変動リスクを平準化できます。
さらに、円高局面では為替ヘッジ付きの米国債ETFを利用することで、為替変動の影響を抑えることが可能です。
インフレが落ち着き、長期的な金利安定が見込まれる環境下では、米国債は再び堅実な資産運用先として注目されるでしょう。
まとめ|インフレ時代における米国債投資の考え方

インフレが進む局面では、債券の実質価値が目減りするリスクがありますが、米国債は依然として世界で最も信用度の高い資産の1つです。
特に長期的な資産形成を目指す投資家にとっては、リスクを抑えつつ安定したリターンを得られる有力な選択肢といえるでしょう。
ただし、金利変動や為替リスクの影響を正しく理解せずに投資を行うと、想定外の損失を被ることもあります。
TIPS(物価連動国債)を組み入れたり、短期債・長期債を分散するなど、状況に応じた戦略を立てることが重要です。
もし、自分の資産状況に対してどのタイプの米国債が適しているのか迷う場合は、ファイナンシャルプランナーに相談するのがおすすめです。
専門家に相談すれば、金利動向やインフレ率、為替の見通しなどを踏まえ、あなたに最適なポートフォリオを提案してくれます。
ココザスはファイナンシャルプランナーとして米国債を始めとした、投資や資産運用のサポートを行っております。
また、お客様の資産状況や家族構成、将来的なライフプランから適切な投資計画のアドバイスを行います。
さらに税金アドバイスや余剰金作りのための家計の見直し、保険やローンなどについての相談も承っておりますので、ぜひ一度ご相談ください。
