持株会は貯金代わりになる?

給与天引きで自動的に積み立てられる持株会を、貯金のように使えるのか疑問に思う人も少なくありません。
実際に貯金効果はあるのか、それとも投資として考えるべきなのか、疑問に思う方に向けて、ここでは持株会の仕組みや違いについて解説します。
「強制貯蓄」の仕組みで貯金効果はある
持株会の大きな特徴は、給与天引きによる強制的な積み立てです。
毎月の拠出額はあらかじめ決められ、給料から自動的に引かれて自社株が購入されるため、使う前に資金が積み立てられる仕組みとなっています。
この仕組みにより、普段から貯金が続かない人にとって、半ば強制的に貯蓄ができるので、無理なくお金を貯められるようになります。
さらに、企業によっては拠出額に応じて奨励金が上乗せされるため、実際の資産形成効果は単純な貯金以上になる場合もあります。
結果として、持株会に参加することで「気づいたらまとまった資産が形成されていた」というケースも多く、貯金が苦手な人にとって有効な仕組みといえるでしょう。
「元本保証」がないため預金とは違う
銀行の定期預金は元本保証があり、利息は少なくても安全性が高い資産形成の方法です。
一方、持株会は自社株を購入する投資であるため、株価が下落すれば拠出した金額より資産が目減りするリスクがあります。
さらに、会社業績の影響を直接受けやすく、自分の給与と投資資産が同じ企業に依存する状況は、倒産などによる収入減少のリスクにつながります。
奨励金や配当金は魅力的ですが、損失リスクがある点は理解しておく必要があります。
持株会はあくまで投資商品であり、銀行預金のような安心感を期待して利用するべきではないといえるでしょう。
貯金ではなく「投資の一部」として考えるべき
資産形成の基本は分散投資であり、全財産を自社株に集中させることは大きなリスクになります。
持株会は奨励金による利回り向上や強制積立効果がある一方で、株価変動による損失も十分起こり得ます。
さらに会社の業績が低下した場合は、持株会による損失だけでなく、給与が下がったり、リストラにつながるリスクもあります。
具体的には、持株会に加えてNISAやiDeCo、投資信託、預金などを組み合わせ、全体としてリスクを分散させることが必要です。
分散投資を取り入れることで、持株会は貯金代わりではなく『効率的な投資手段の1つ』として資産形成に役立つでしょう。
持株会の仕組みと基本ルール

持株会は、給与天引きによって自動的に自社株を積み立てていく制度です。
社員の資産形成をサポートする福利厚生として導入されるケースが多く、奨励金などのメリットも用意されています。
しかし、いまいちこの制度のことを理解されていない方もいらっしゃるのではないでしょうか。
ここでは基本的な仕組みとルールを解説します。
給与天引きで自社株を積立購入する仕組み
最大の特徴は「給与天引き」で資金が積み立てられる点にあります。
社員は一度拠出額を決めると、毎月自動的に給与から天引きされ、株式購入に充てられるため、自分の意思で振り込みをする手間がありません。
積立額は数千円から選べることが多く、無理のない範囲で参加できる仕組みになっています。
積立方式のため、一度に大金を投資する必要はなく、長期的に資産を形成するのに向いている制度といえるでしょう。
奨励金や補助がつく場合が多い
拠出額に対して会社が上乗せする仕組みで、例えば毎月1万円を拠出した場合、5%の奨励金があれば500円が加算され、実際には1万500円分の株式が購入できます。
ここでいう「奨励金」とは、従業員が持株会に参加することを企業が後押しするための金銭的なインセンティブのことです。
一方の「補助金」は、会社が株式購入の一部を負担してくれる制度で、従業員の自己負担を軽くする役割を持ちます。
この奨励金は、確実に受け取れる補助であり、投資全体の利回りを押し上げる大きな要素といえます。
銀行預金では得られない即効性のあるリターンがあるため、参加する従業員にとって大きな魅力となっています。
福利厚生として導入されることが多い理由
持株会は、従業員の資産形成を支援するだけでなく、会社にとってもメリットがあります。
社員が自社株を保有することで会社への愛着や帰属意識が高まり、長期的な雇用関係の維持につながります。
また、株価上昇や配当を通じて社員が会社の成長を自分ごとのように感じられるため、モチベーションの向上にも寄与します。
持株会を福利厚生として導入している企業例
- トヨタ自動車/トヨタグループ
- ソニーグループ
- ネットスターズ
こうした理由から、持株会は持株会は福利厚生の一環として導入する企業が多く、従業員と会社双方にとってプラスとなる仕組みといえます。
持株会を貯金代わりにするメリット

ここでは、持株会を貯金代わりにする具体的なメリットを3つ紹介します。
・奨励金で実質利回りがアップする
・長期的に資産形成につながる可能性
1つずつ確認していきましょう。
強制的にお金を積み立てられる
持株会は「給与天引き」で自動的に拠出されるため、自分の意思で「余ったら貯金する」という従来のやり方とは大きく異なります。
お金を手元に残さないことで、つい衝動的に使ってしまうリスクを防ぎ、強制的に積み立てを継続できます。
また、積立額は毎月一定額に設定できるため、知らないうちにお金が貯まっていたという感覚を得やすいのも特徴です。
特に貯金が苦手な人や、生活費と資産形成の区別が難しい人にとっては、強力な仕組みとなるでしょう。
奨励金で実質利回りがアップする
実質利回りとは、拠出した金額に対して実際に得られるリターンを年率換算したものを指します。
多くの企業では、従業員が持株会に拠出した金額に対して「奨励金(会社の補助)」を上乗せしてくれます。
例えば毎月2万円を拠出し、会社が10%の奨励金を付けると、実際には2万2,000円分の株式を購入できると言えるでしょう。
これは、預金の利息が年0.001%程度しか得られない時代において、事実上即時にリターンを得られる非常に大きなメリットです。
また、奨励金は元本保証のように必ず受け取れる仕組みであるため、株価変動リスクをある程度カバーする効果も期待できるでしょう。
長期的に資産形成につながる可能性
株価が上昇すれば含み益が得られ、配当金が支払われれば追加の収益源になるでしょう。
銀行に預けているだけではお金はほとんど増えませんが、持株会なら「株価成長+配当+奨励金」という複合的なリターンを期待できます。
さらに、積立投資の形をとることで「株価が高いときは少なく、安いときは多く買う」というドルコスト平均法の効果が働き、リスクを分散しながら着実に資産を増やせます。
このように、自動積立を続けることで、長期的な視点で安定した資産形成ができる点が最大のメリットです。
つまり、短期的な市場変動に左右されにくく、長期的に資産形成が可能になることが、持株会を貯金代わりにする大きな利点となります。
持株会のデメリット

一方、持株会にはデメリットもあります。
・会社業績悪化の影響を受けやすい
・換金性が低く、緊急時に使いにくい
・自社株に偏った資産運用になるリスク
ここでは4つ紹介するので1つずつ確認していきましょう。
株価下落リスクがある
特に短期的に株価が大きく変動することもあり、急な資金が必要になった際には損失が出るリスクも考慮しなければなりません。
銀行預金のように元本保証はないため、貯金代わりとしての安全性は低く、投資としての性質を理解したうえで参加する必要があるのです。
会社業績悪化の影響を受けやすい
赤字決算や事業環境の悪化によって株価が下がれば、積み立てた資産が目減りする可能性があるでしょう。
また、倒産や経営破綻の場合は、投資した資金が大きく目減りするリスクもあるため、会社の将来性や財務状況をある程度把握したうえで加入することが重要です。
換金性が低く、緊急時に使いにくい
例えば、購入から半年〜1年間は売却できないロックアップ期間が設定されていたり、売却できるのは月に1回など、特定の日に限られる場合もあります。
また、1回に売却できる株数や年間で売却できる上限が決まっていることもあります。
このような制限は、社員の長期保有を促したり、株価の急変を防ぐ目的で設けられているのです。
そのため、急な出費や緊急の資金需要が発生した場合にすぐに現金化できず、生活資金の補填に使いにくいというデメリットがあります。
銀行預金のようにいつでも引き出せる自由度がないため、緊急資金には適していません。
自社株に偏った資産運用になるリスク
給与も会社に依存している場合、収入と資産が同じ企業に集中するため、万が一会社の業績が悪化した場合にリスクが二重化します。
資産形成の基本である「分散投資」の観点からも、持株会だけに偏らず、他の金融商品や預金と組み合わせることが重要です。
貯金と持株会の違いを徹底比較

貯金と持株会はどちらも「お金をためる手段」ですが、性質やリスクは大きく異なります。
| 比較項目 | 貯金 | 持株会 |
|---|---|---|
| 元本保証 | あり(銀行預金は安全) | なし(株価変動で元本割れの可能性あり) |
| 流動性 | 高い(いつでも引き出せる) | 低い(売却制限・上限あり) |
| 利息・配当 | 銀行利息(低金利) | 配当+奨励金+株価上昇による実質利回り |
| リスクとリターン | 低リスク・低リターン | 高リスク・高リターンの可能性あり |
| 利用目的の向き不向き | 緊急資金・生活費向き | 長期的な資産形成向き |
ここでは、元本保証、流動性、利息・配当、リスクとリターンの4つの観点から比較して解説します。
元本保証の有無
貯金は銀行に預けるため元本保証があり、基本的に減ることはありません。
一方、持株会で購入する自社株は株価の変動に影響されるため、購入額より資産が減るリスクがあります。
流動性
貯金は原則いつでも引き出せるため、急な出費や生活資金として活用しやすいです。
対して持株会は、売却に制限があることが多く、購入後すぐに現金化できない場合があります。
利息と配当の違い
貯金では銀行から利息が付与されますが、その金額は非常に低く、インフレに対して資産価値を守る力は弱いです。
一方、持株会は配当金に加え、奨励金や株価の値上がり分を含めた実質利回りで資産を増やせる可能性があります。
リスクとリターンの性質
貯金は元本保証があるためリスクはほぼゼロですが、利回りも低く、大きな資産形成は期待できません。
持株会は株価変動や会社業績の影響を受けるリスクがありますが、奨励金や配当、株価上昇によるリターンは貯金より高くなる可能性があります。
持株会はどんな人に向いている?

持株会は、誰にでも向いているわけではありません。
強制的に貯蓄したい人や、自社の将来性に自信がある人、長期的な資産形成に前向きな人には適しています。
ここでは、具体的にどのような人に向いているかを解説します。
・自社の将来性を信じている人
・長期投資に前向きな人
自分も該当するかチェックしておきましょう。
強制的に貯蓄したい人
強制的に貯蓄したい人は持株会に向いています。
「ついお金を使ってしまい、貯金が続かない」という浪費家にとって、持株会は効率的にお金を貯めることができるでしょう。
給与天引きで毎月自動的に積み立てられるため、自分の意志に頼らずに資産を増やすことができます。
貯金習慣がない人でも、知らないうちに資産形成ができる点が大きなメリットです。
自社の将来性を信じている人
自社の将来性を信じている人は、持株会に向いています。
持株会は自社株に投資する仕組みなので、会社の業績や将来性を信じられることが前提となります。
業績が好調で株価上昇が期待できる企業であれば、奨励金に加えて株価の上昇分や配当も得られるため、貯金以上のリターンを狙いやすくなります。
逆に会社に不安がある場合はリスクが高まるため、慎重な判断が必要です。
長期投資に前向きな人
持株会は短期的な利益よりも、10年や20年といった長期的な積み立てによる資産形成を目的としているので、長期投資に前向きな人に向いています。
数年単位で保有することでドルコスト平均法の効果を活用でき、株価の上下動によるリスクを分散できます。
また、長期保有により配当や奨励金の複利効果も期待でき、コツコツ積み立てながら着実に資産を増やすことが可能です。
短期で現金化したい人には向きませんが、長期的に資産を増やす意欲がある人におすすめです。
持株会と併用したい資産形成の選択肢

持株会は長期的な資産形成に有効ですが、元本保証がなく株価下落リスクもあるため、資産形成の全てを持株会に頼るのはリスクがあります。
より安全で効率的に資産を増やすためには、iDeCoやNISA、定期預金、投資信託など、他の金融商品と組み合わせることが重要です。
ここでは、持株会と併用できる資産形成の選択肢とその活用法を解説します。
iDeCo・NISAとの違いと活用法
iDeCoは掛金が全額所得控除になり、運用益も非課税で受け取れるため、長期の資産形成に適しています。
NISAは年間投資額の範囲内で株式や投資信託の配当・値上がり益が非課税になります。
双方の違いを以下の表にまとめました。
| 項目 | iDeCo | NISA |
|---|---|---|
| 制度の特徴 | 個人型確定拠出年金。老後資金用の積立制度 | 少額投資非課税制度。株式・投資信託の配当・売却益が非課税 |
| 税制優遇 | 掛金全額所得控除、運用益非課税 | 配当・売却益非課税 |
| 年間・月額上限 | 月額6.8万円(職業・条件により変動) | 年間120万円まで投資可能 |
| 目的 | 老後資金の長期運用 | 長期または中期の資産形成 |
| 流動性 | 原則60歳まで引き出せない | いつでも売却可能 |
| 活用法 | 所得控除で節税しつつ長期運用 | 非課税で投資可能、持株会のリスク分散に有効 |
持株会は自社株への投資ですが、iDeCoやNISAは分散投資が可能です。
両者を併用することで、税制優遇を受けながら自社株以外の投資にも資金を回すことができ、資産形成の効率を高められるのでおすすめです。
定期預金や投資信託と組み合わせる方法
定期預金や投資信託と組み合わせる場合は、それぞれの特徴を理解しておきましょう。
定期預金は元本保証があり、利息は低いものの資金の安全性を確保できます。
一方、投資信託は複数の株や債券に分散投資できるため、リスクを分散しつつリターンも狙えます。
持株会と組み合わせる場合、生活資金や緊急資金は定期預金で確保し、余裕資金は投資信託や持株会に回す、といった資金配分が有効です。
分散投資でリスクを下げる工夫
資産形成で重要なのは、リスクを抑えつつ安定したリターンを得ることが大切なため、持株会だけに偏らず、複数の金融商品に分散投資する工夫が必要です。
持株会だけに資産を集中させると、自社の業績悪化や株価下落の影響を受けやすくなります。
株式、投資信託、債券、預金などに分散することで、一部の資産が下落しても他で補える仕組みを作れます。
例えば、自社株と投資信託をそれぞれ30%ずつ、残りを債券や定期預金で40%保有することで、リスクとリターンのバランスを取りながら長期的な資産形成が可能となるでしょう。
まとめ

持株会は給与天引きで自動的に自社株を積み立てる制度で、奨励金や配当を通じた長期的な資産形成が期待でき、貯金が苦手な人にとって有効な制度です。
しかし、株価下落リスクや会社業績の影響、売却制限などのデメリットもあるため、貯金代わりとしてではなく「投資の一部」として考えることが重要です。
元本保証されていないので、リスクを抑えるうえでもiDeCoやNISA、投資信託、定期預金などと組み合わせて分散投資するのがおすすめです。
ただし、資産形成初心者の方にとっては、どのような組み合わせをすればよいかわからないことでしょう。
迷った場合は、専門家であるファイナンシャルプランナーに相談してみましょう。
ファイナンシャルプランナーに相談することで、自社株の比率や積立額、リスク管理の方法を具体的にシミュレーションでき、自分のライフプランや資産形成の目標に合った最適な活用法が明確になります。
ココザスはファイナンシャルプランナーとして投資や資産運用のサポートを行っております。
また、お客様の資産状況や家族構成、将来的なライフプランから適切な投資計画のアドバイスもしています。
さらに税金アドバイスや余剰金作りのための家計の見直し、保険やローンなどについての相談も承っておりますので、ぜひ一度ご相談ください。
