ジャクソンホール会議ってなに?
そもそも「ジャクソンホール会議」とは、米国ワイオミング州のジャクソンホールで、毎年8月末に開催される経済シンポジウムのことです。
投資を始めたばかりの人の中には、シンポジウムが行われるイベントホールのことを「ジャクソンホール」だと勘違いしている人もいますが、実は、地名。
ワイオミング州北西部に位置する観光地が「ジャクソンホール」であり、そこで毎年行われるシンポジウムを「ジャクソンホール会議」と呼んでいます。
ちなみに、1982年に初めて開催された時、大のフライフィッシング好きだった当時のFRB議長だったボルカー氏が、渓流釣りで有名なこのジャクソンホールを選んだとも言われています。
では、なぜこのジャクソンホール会議が注目されるのでしょうか。
ジャクソンホール会議は、米国の連邦準備銀行のひとつ「カンザスシティー連邦準備銀行」が主催者であり、世界各国の中央銀行総裁や政治家、学者、エコノミストなど招待された人だけしか入れないクローズな場です。
もちろん、通訳もなし。
世界の金融トップらが膝をつき合わせてアカデミックな経済政策論などを交わす場は他になく、しかも、8月はFOMCなどの先進国の金融政策決定会合がお休みということもあって、年度後半の金融政策を占う会合として注目されています。
近年では、コロナ禍からの景気回復を目的とした世界的な金融緩和とその後の長期的なインフレ、急速な金融引き締めと金融市場を取り囲む環境は激変していることから、その注目度はますます高まっています。
ジャクソンホール会議でのリップサービスが金融市場を大きく動かす
実際に、このジャクソンホール会議での発言を機に金融政策が変更されたり、金融市場が反応したことは、過去、何度もありました。
例えば、2010年8月の会議では、当時のバーナンキFRB議長が講演で、米国経済を立て直すために金融市場に大量のドルを供給する異例の「量的緩和」に踏み切ることを示唆したため、たちまち景気の先行き不安がやわらぎ、株式相場は上昇しました。
また、2014年8月の会議で、当時のECBのドラギ総裁が一段の金融緩和を示唆した直後、ECBは9月の理事会で政策金利の引き下げを決めた、ということもありました。
記憶に新しい昨年2022年の会議でパウエルFRB議長は、「利上げは、やり遂げるまでやり続けねばならない」と明言。
金融引き締めを継続し、インフレ退治を優先するのだという強い決意を打ち出しました。
たしか、予定されていた30分ほどの講演時間をたった8分で切り上げ、質疑応答も受けずに、壇上から立ち去ったのだとか。
この「タカ派」発言で早期利下げ観測は立ち消え、米国株式相場は急落、米長期金利も一時急騰したのです。
今年の注目点は?
では、今回の会合では何が注目されるのでしょうか。
足元では、米国の6月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比3.0%の上昇となり、2021年3月以来、2年3カ月ぶりの低水準となりました。
金融市場では、記録的なインフレが収まりつつあるとして、年後半の利上げが「打ち止め」になるとの楽観論が浮上。
株式相場の上昇が続いてきました。
しかし、賃金は依然として堅調な伸びが見せており、今回の賃金インフレを解消するのは容易ではないとの見方も耳にします。
そんな難しい環境下で行われる今回のジャクソンホール会議で、パウエルFRB議長は利上げ終了を示唆し、インフレに対する「勝利宣言」をすることができるのか。
また、その先にある景気後退の可能性と、金融緩和策への転換時期をどのように考えているのか。
はたまた、米国経済がこの高金利の中でリセッションに陥らずに再浮上することはありえるのか――。
世界の金融関係者が聞きたいことは山ほどあるでしょう。
さらに、ここまで米国と歩調を合わせるように金融の引き締めを行ってきたECBなども、利上げを完全に停止できるのはいつなのか。
そして、日銀はいつ動くのか?
各国・地域の金融政策に違いが出てきたときが、投資先を変える、もしくは投資資金を上乗せするチャンスです。
今年のジャクソンホール会議では、様々な「違い」が見つかる可能性も高いことから、一段とニュースに目を光らせ、視野広く、世界経済の行方を見極めたいところです。