新設住宅着工戸数の現状
新設住宅着工戸数(総数)は、23年年間総計は約82万戸でした。
注目は、自己所有の土地に自己利用の住宅を建築する「持ち家」が大幅に減少していることです。
前年同月比でみれば、21年12月以来、22年・23年・そして24年4月(執筆時点最新)まで全てマイナスとなっています。
「持ち家」の年計は22年・23年とも前年比2ケタのマイナスで、23年は約22万4千戸でした。
24年も概ね毎月10%減で推移していますので、このペースなら、持ち家の新設住宅着工戸数は年計で20万戸を少し超える程度で着地する見通しです。
この数字は1960年代前半と変わらず、60年前の水準となりそうです。
同様に、分譲戸建の新設住宅着工戸数も大きく減少しており、こちらは、22年11月以降24年4月まで前年同月比でマイナスが続いています。
図1は、22年年初から執筆時最新の24年4月分までの新設住宅着工戸数の月別の数字と前年同月比を並べたものです。
これをみれば、戸建住宅の大幅減少の状況がよく分かります。
「持ち家」の新設住宅着工戸数大幅減少の理由
その最大の要因は、住宅建築費用が上昇していることでしょう。
国土交通省が毎月公表している「建築工事費デフレーターの推移」をみれば2012年以降上昇が続いており(東日本大震災の復興工事の影響や東京オリンピック関連工事が増えたことが影響の始まり)、とくに22年~23年は大きく上昇しました(海外でのインフレ、ウッドショック、原油価格の上昇、輸送費の上昇など複数要因)。
住宅建築費を見ても、木造住宅だけでなく、工場で多くが製造される軽量鉄骨住宅(S造)の建築費も大幅に上昇しています。
今後、住宅工事費ですが、円安基調が続いていることによる原材料費の上昇、エネルギー関連費用の上昇、工事関連人件費(職人人件費)の上昇などの要因から、「いまが、一番安い」状況となりそうです(少なくとも、今後数年間の間は、工事費上昇は確実でしょう。)
分譲戸建の状況
分譲戸建の新設住宅着工戸数も22年年末から1年半以上前年同月比でマイナスが続いています。(上記の表を参照)
郊外が中心の分譲戸建では、建築工事費上昇に加えて、郊外住宅地地価の上昇も影響しているものと思われます。
郊外の分譲戸建は、比較的安価な物件が売れていましたが、地価・建築費とも上昇しているため、デベロッパーは、「安い分譲戸建の建築は難しい」と判断しているようで、そのため供給数=新規物件建築が少なくなっているようです。
こちらも、しばらく供給数は減少傾向が続き、24年の新設住宅着工戸数の分譲戸建は、昨年比で10%近く減少するものと思われます。
ハウスメーカーの実績に顕著な差
こうした状況で建築する方は、比較的所得の高いあるいは資産を多く保有する富裕層の方々が多いようで、高くてもいいから「いい家を建てたい、あるいは買いたい」と思われている方々です。
このような状況下で、決算資料(年度決算、四半期決算)をみれば、多くのハウスメーカーが個人住宅の建築請負金額・建築戸数を落としているようです。
発表資料では、大手ハウスメーカーの中では積水ハウスだけが横ばいレベルをキープしているようです。
新設住宅着工戸数における「持ち家」の建築数は大きく減少していますが、22年の年間に建てられた住宅の中で200㎡を超える大型住宅(たいていは、高額で富裕層クラスが建築する注文住宅)は、上位2社で半数近かったようで、ハウスメーカーの実績(注文住宅売り上げにおいて)は二極化が進んでいるようです。
多くの大手ハウスメーカーが建築数・請負金額を落としている中で、質の高い住宅を提供しているメーカーのみが生き残っているという状況となっているようです。
保有資産の二極化はますます顕著に
資産3億円を超える富裕層の数はこの10年で大きく増えているようです。
また、分譲マンション販売においても、好立地のブランドマンションは、人気が高く高倍率住戸が増えているようです。
中古マンションでも、安価な物件より高価格物件の流通量は多いようです。
保有資産状況(所得の二極化でないことに注意!)の二極化が進んでおり、その結果、売れる住宅の様相は変わってきています。
このような傾向は、今後ますます顕著になってくるものと思われます。