キャップレートとは
キャップレート(Capitalization Rate)とは、簡単にいえば「不動産投資における利回りの指標」の1つで、「期待利回り」のことを指します。
不動産価格を算定する際の手法の1つである収益還元法における収益物件価格の理論算定式は、a/r=P で表されます(aは賃料、rは利回り、Pは価格)。
実際には、年間収益(NOI)÷利回り=不動産価格で計算されます。
そして、ここでの「r」つまり「利回り」は、キャップレートが基準として用いられる例が多く見られます。
この計算式を用いれば、仮に賃料やNOIが一定とすれば、「キャップレートの動向は、不動産価格の動向を反映したもの」となり、例えばキャップレート低下は不動産価格の上昇となります。
キャップレートはあくまでも、「投資家など市場参加者の期待値」ですので、実際の取引利回りとは異なります。
そのため、キャップレート>取引での利回りの場合(あるいは市況の時)は、投資意欲が盛んであると解釈することができます。
賃貸住宅ワンルームタイプのキャップレート
現状の賃貸住宅(投資用マンション)におけるキャップレートはどのくらいなのでしょう。
(以下、データは、(財)日本不動産研究所が11月27日に公表した第49回「不動産投資家調査」(調査時点:23年10月)より)
ワンルームタイプ(注:ワンルームタイプの想定物件は、25~30㎡、築5年未満、駅徒歩10分以内、区分ではなく一棟物件への投資)のキャップレートは、調査を行った全国主要都市(10都市)のうち、仙台・横浜・名古屋・京都・福岡で前回調査(23年4月調査)より0.1ポイント低下。
それ以外の6都市では横ばいとなっています。ワンルームタイプのキャップレートは、ここ1年間「横ばい」という状況です。
最も低いとされる東京城南エリア(目黒区・世田谷区、渋谷・恵比寿へ電車などで15分圏内想定)のキャップレートは、3.8%で前回調査と同じ、想定物件の取引利回りは3.5%でこちらも前回と同じとなっています。
都市部における賃貸住宅需要は安定が続く見通しのため投資意欲は高いものの「さすがに、ここまで高いとなかなか手が出にくい…」という状況なのかもしれません。
賃貸住宅ファミリータイプのキャップレート
ファミリータイプ(注:物件想定は広さ50㎡~80㎡、それ以外はワンルームタイプと同じ)では、多くの都市でキャップレートが前回調査よりも低下しました。
調査10都市のうち、東京城南・仙台・名古屋・京都・神戸・広島・福岡で0.1ポイント、札幌では0.2ポイント低下しました。横ばい地域は2地域で、ワンルームタイプに比べて、全国的に低下している状況が伺えます。
東京・城南地域をみれば、22年10月(4.0%)→22年4月(3.9%)→23年10月(3.8%)と推移しており、最新の値はしばらくぶりにワンルームタイプと同じ値となっています。
また、想定物件の実際の取引における利回りは3.5%、でこちらもワンルームタイプと同じ利回りです。
ファミリータイプ物件のキャップレートは、この1年間全国的に低下傾向にありました。
投資物件としては、安定的に賃貸需要があり、つまり空室が出にくく、賃料のボラティリティが小さいことから「手堅い」とみられているワンルームタイプのキャップレートの方が低い傾向にありました。
しかし、このところの動向をみれば、ファミリータイプのキャップレートが低下している都市が多く、ワンルームとファミリータイプが同じ値の都市6つ、その他地域でも差は0.1ポイントと「ほぼ変わらない」状況となっています。
なぜ、ファミリータイプ物件への投資意欲は旺盛なのか
では、なぜファミリータイプ物件への投資意欲は伸びているのでしょうか。
要素の1つとしてまず挙げられるのが、ファミリータイプ区分マンションの賃貸需要が増えていることです。
分譲マンション価格は新築・中古とも史上最高水準となっており、購入を見合わせる「様子見」の世帯が多くいます。
また、マンション価格上昇に伴い、賃料も上昇しており、投資環境としては良い状況です。
さらにもう1つの要因としては、キャピタルゲイン狙いの投資も増えていることでしょう。
不動産投資の目論見は、物件の値上がり期待(キャピタルゲイン期待)と賃料収入期待(インカムゲイン期待)がありますが、ワンルームタイプ物件への投資では、インカムゲイン狙いが中心です。
しかし、賃料収入の安定感では勝るものの、都心の超一等地の高額ワンルームなどではキャピタルゲインは狙えますが、多くの物件ではそれほど大きなキャピタルゲインを狙うことは難しくなります。
まさに、この逆のことが言えるのがファミリータイプ物件です。マンション価格の上昇が続いている状況下では、多少のリスクがあってもキャピタルゲインを狙うという思惑が広がっているのかもしれません。
まだまだ投資意欲は高い
ここで取り上げた「不動産投資家調査」では、キャップレート以外のアンケート調査も行っています。
「今後1年間の不動産投資に対する考え方」についての回答では、「新規投資を積極的に行う」の回答は95%(前回は96%)と大きな変化はなく、積極姿勢が続いています。
一方「新規投資を控える」の回答は5%(前回は3%)と、前回調査から僅か2ポイント上昇しました。この調査からは、金利上昇を心配しつつも、不動産市況はまだしばらく活況が続きそうな様子がうかがえます。