日産、再び経営危機|2025年3月期の決算で最終赤字が約7,000億円

今日は、「日産自動車の今」を整理していきましょう。ニュースでも話題になっていますが、かなりの赤字が出ているようです。
そうですね。すごい赤字だと話題になっていて、社長の視点から「日産に今何が起きているのか」をお聞きしたいなと思っています。
分かりました。いくつかのニュース記事を見ながら整理していきましょう。
日産といえば、経営危機を何度も乗り越えてきた会社ですけど、今はかなり厳しい状況です。
少し前にはホンダと業務提携や統合の話が出ていましたね。
ありましたね。
でも結局、ホンダの方が業績が良くて、日産は業績が落ち込んでいた。
そのためホンダとしては「救済合併」のような形でしか受け入れられず、日産側のプライドもあって交渉は決裂。
つまり、今は自力での再建を迫られているという状況です。
なるほど…。
2025年3月期の決算では、最終赤字が約7,000億円です。ものすごい金額ですよね。

7,000億円って…想像がつかないですね。
ただ実は、これは初めてのことではなくて。約26年前の1999年にも、同じように巨額の赤字を出していたんです。そのときに呼ばれたのがカルロス・ゴーンさん。
彼が「日産リバイバルプラン」を打ち出して、工場閉鎖など大胆なリストラを実行した。
その結果、2000年から2007年までは黒字を続け、まさにV字回復を果たしたんです。
▼動画で確認したい方はこちら
第二のリバイバルプラン|本社ビルも売却し 資金繰り安定を狙う「リースバック」

この規模の赤字でも潰れないのが不思議です。
日産は資産もありますし、これまで積み上げてきた利益もあります。一回の赤字で即倒産という話ではありません。とはいえ今回は本社売却の話まで出ているので、相当厳しいのは確かですね。
本社って、あの横浜駅近くのビルですよね。あそこを売却って、かなりの決断ですね。
そうですね。最近は大企業でも本社ビルを売るケースが増えています。
例えばエイベックスの本社も売却されましたし、理由は不動産価格の高騰です。
含み益のある資産をキャッシュ化して、資金繰りを安定させる戦略ですね。
じゃあ、日産も本社を売って、別のところへ移転するんですか?
いえ、そうではありません。「リースバック」といって、一度ファンドなどに売却して、そのまま賃貸で借りる形です。
つまり所有権を手放して現金を得る代わりに、今後は家賃を払って使い続ける。
これでバランスシート上の固定資産がキャッシュに変わるので、キャッシュフロー的にはプラスになります。
なるほど。現金を増やして、支払い余力を確保するということですね。
そうです。ですから本社売却そのものが悪いニュースではないんです。ただ、同時に横須賀の追浜工場の売却も決まっています。ここは電気自動車「リーフ」を作っていた工場で、数百億円規模の取引になるようです。
本社ビルの方は1,000億円って報道もありましたね。
そうですね。ただまだ正式決定ではありません。それでも、稼働率の低い工場を閉鎖し、9,000人規模の人員削減を含めた再建策が進んでいます。まさに「第二のリバイバルプラン」といっていい状況です。
なるほど。まさにゴーンさんの時と似た局面ですね。
そう。あの時の改革がなければ日産は残っていなかったかもしれません。今また同じような転換点に立たされている。でも、あの時のようなカリスマ的リーダーがいないのが現状の課題です。
「7000億円赤字」でも潰れない理由 ― 日産の現金力は健在

7,000億円の赤字って、やっぱり財務的にもボロボロなんですか?
確かに厳しいですが、現金を見てみましょう。日産のIR資料を開くと、2024年度末時点で現金・預金は1兆8,964億円。
翌年2025年3月時点では1兆9,615億円に増えています。

あ、現金は増えてるんですね。
そうなんです。僕がよく言う「会社はお金があれば倒産しない」というのは、まさにこのこと。
キャッシュが潤沢であれば、赤字でもすぐに潰れることはありません。
これだけの資金があるわけですから、リストラを含めた経営再建を数年かけて進めていくことは十分に可能だと見ています。
現金以外にも債権とか有価証券とか、すぐに動かせる資産もありますよね?
そうですね。いわゆる「流動資産」と呼ばれるもので、1年以内に現金化できるものを指します。

これが12.8兆円から12.3兆円へ、ほぼ変わっていない。
資産規模は維持できているということです。
なるほど。思ったより大丈夫そうですね。
はい。さらに固定資産の額も、6兆9,669億円から6兆6,900億円と、ほとんど変化はありません。
バランスシートの厚みはほぼそのままなんです。
これだけ赤字を出しても、資産構造が大きく崩れていないのはすごいことですよ。
確かに。赤字でも資産が減っていないのは意外です。
借入金などの負債も見ていくと、流動負債が少し増えていますが、全体として大きな問題はありません。
決算書を見る時は「流動資産」と「流動負債」のバランスが大事だと、以前の記事でも紹介しました。
▼ 合わせて読みたい
「流動比率100%」のことですよね?
そうです。例えば流動資産が12兆円で、流動負債が8兆円なら、1年以内の支払いは十分にカバーできる。これが12兆円同士でも流動比率100%で「とりあえず1年は大丈夫」という判断になります。
なるほど、短期的な支払い能力を示す指標なんですね。
その通りです。さらに借入金(社債)も順調に返済が進んでいます。
日産は現在、約1.7兆円の社債を抱えていますが、現金が1.9兆円あるので、極端な話、返そうと思えば全額返せる。
販売金融債権というのは、自動車をローンで販売したときの未回収金です。
これも健全な範囲です。
「営業黒字なのに赤字?」日産7,000億円赤字の真相は“減損損失”

じゃあ、7,000億円の赤字はどこから来ているんですか?
いい質問ですね。連結損益計算書を見てみると、売上高は12.6兆円と前期とほぼ同じ。

ただ、売上総利益(粗利)が2兆円から1.7兆円に減っていて、約3,000億円のマイナスになっています。
やっぱり資材コストの上昇や円安の影響ですか?
そうですね。原材料費の高騰や、販売奨励金の増加も影響しています。
「車がなかなか売れないから、販売店にインセンティブを出す」という構造です。
また、販管費も1.5兆円から1.6兆円へと増加しています。
営業利益はまだ黒字なんですか?
はい。営業利益は697億円のプラス。ただし前期の5,687億円から90%減です。

ではなぜ最終赤字になったかというと、「特別損失」の部分に注目してください。
特別損失?
そう。ここに「減損損失」が約4,949億円、つまり5,000億円近く計上されています。これが赤字の大部分を占めています。

減損損失って、具体的にどういうことですか?
会計上、持っている資産の価値を見直して、「もう価値が下がった」と判断された分を損失として処理することです。ニュースでも出ていましたが、国内外の工場の資産価値を見直して損失を計上した、つまり「工場の減損」が主な要因です。
なるほど。工場ってお金をかけて建てているのに、それが損になるんですね。
はい。例えば、もう生産を止める工場や、採算の合わない設備を閉鎖すると、「この資産はもう使わない」と判断される。そうなると、帳簿上の資産価値はゼロにしなければならない。
「持っているけど価値がない」状態なんです。
ちょっと分かりにくいかもしれません。もう少し噛み砕くと?
ワインを例に考えてみよう!
じゃあ例え話をしましょう。僕のワインセラーに、100万円のワインが10本あったとします。

帳簿上は1,000万円の資産ですよね。
でもセラーを開けたら全部割れていた。
中身がこぼれて瓶だけになっていたとしたら、価値はゼロです。
ああ、つまり「持っていると思っていた資産が、実は価値を失っていた」ということですね。
その通り。10本全部そうだったら、1,000万円の損失になります。
これが「減損処理」です。
上場企業では監査法人がチェックしているので、「もうこの工場は使っていませんね」と判断されると、強制的に損失計上される。
なるほど。だから営業利益は黒字でも、特別損失で最終赤字になったということですね。
そうです。営業段階では697億円の黒字ですが、減損などの特別損失を差し引くと最終的に約7,000億円の赤字。これが今回の決算の全体像です。
帳簿上の赤字では終わらない ― 日産が直面する“構造的リスク”

他にも「その他特別損失」という項目があって、リストラ費用などもここに含まれます。つまり、将来的に支払う退職金や再就職支援金のような「引当金」を先に積んでおく形ですね。
それって、退職金みたいなことですか?
そうです。いわゆる退職パッケージを用意して、「何か月分か多めに払うから退職してください」というケースですね。人件費というよりは「特別損失」として処理されることが多いです。
なるほど。じゃあキャッシュが実際に出ていなくても、帳簿上は赤字になるんですね。
その通り。実際のキャッシュフローは悪化していません。とはいえ「不動産の減損だけだから問題ない」とも言い切れません。
どういうことですか?
さっきのワインの話を思い出してください。僕のワインは飲めなくなっても、別にお金を生み出すものではありませんよね。
でも工場は違います。
車を生産して販売していく“源泉”なんです。
だから、その工場がなくなるというのは、将来的な売上が確実に減るということ。
なるほど…。確か、工場の数を17から10に減らすって言ってましたよね。
そう。約40%減です。これはかなりの規模ですよ。さらに追い打ちをかけるのが、アメリカのトランプ政権による関税措置の影響。
来年度は4,500億円規模のマイナスが見込まれています。
えっ、それは大きいですね。トヨタなんかは逆に恩恵を受けてましたよね。
そうなんです。トヨタは1兆円規模の利益増と見られている一方、日産は営業利益がほぼ出ていない状態。来期の業績予測でも、すでに2,000億円の赤字見通しを発表しています。なので、株価はしばらく厳しいと思います。
決算書だけでは見えない真実 ― “化粧決算”を見抜く投資家の視点

決算資料を見ると、リストラ関連費用も細かく書いてありますね。
そうです。だから投資家としては、ニュースだけでなく、こうしたIR資料をしっかり確認することが大切なんです。
決算報告書と決算説明資料は別物で、前者は形式が決まっていますが、後者は企業が自由に作っていいんですよ。

え、自由に?
はい。好きに書けます(笑)。
昔、クックパッドの決算説明資料が“ポエム”だらけで話題になったことがありました。
株主に伝われば何を書いてもいいという世界です。
なるほど、ある意味PR資料なんですね。
そうです。最近だと楽天も似たようなことをしていて、「営業利益」ではなく「シナジー調整後営業利益」なんて独自の指標を出してプラスに見せている。いわば“化粧決算”です。
でも、日産の資料を見て厳しいのは、販売台数の減少。
これが最も深刻です。

売上よりも台数が落ちてるんですね。
はい。車が売れなくなってきています。販売台数は減少傾向で、来期の見通しもさらに下がると書かれています。
粗利も減り、米国関税の影響で4,500億円のマイナス見通し。
売上は下がる、コスト削減も限界、未定要素も多い。
かなり苦しい構造です。
これは厳しいですね…。
日産は今、5,000億円のコスト削減を打ち出しています。工場削減、人員削減、そして全体の効率化。まさに“ゴーン改革”の再来です。
本当に当時と同じ状況ですね。
そう。追い詰められていると言っていいでしょう。これが決算書から読み取れる現実です。ただ、こうしたデータの見方を理解すれば、どの企業が本当に危ないのかを自分で判断できるようになります。
たしかに。数字の裏を読めるのは大事ですね。
ファン離れが止まらない ― 日産が抱える“感覚的な危機”

でも最終的には“感覚値”も大事なんですよ。例えば細川さん、今「日産の車が欲しい」と思いますか?
うーん…正直、あまり浮かばないですね。やっぱり車といえばトヨタのイメージが強いです。
そうでしょう。例えば「アルファードが欲しい」「ベンツのGクラスに乗りたい」という声はよく聞きますが、「日産のセレナが欲しい」とかあまり聞かないですよね。
確かに。リーフとかは聞いたことありますけど、街で見る台数も減ってる気がします。
そうなんです。ファンの方ももちろんいますが、今いちばん悩んでいるのはそのファン層です。
「株を持ち続けるべきか」「買い支えるべきか」。
でも街を見ても、日産車が減っている。
やはり感覚として“勢いがない”のは事実です。
たしかに。
昔は違いましたよ。僕の最初の車は日産でした。プレジデントロング。2代目はシーマ。あの頃はトヨタのセンチュリーやセルシオと互角に戦っていた。ちゃんとライバル関係が成り立っていたんです。
なるほど…。でも今はもうそのバランスが崩れたんですね。
そう。物づくりの力を失ってしまった。ブランド力の差がここまで広がると、もう簡単には戻れない。今はセレナ、ノート、エクストレイルくらいが主力ですが、以前のような存在感は感じませんね。
最近、街でもほとんど見ないですね。
はい。だから商品ラインナップを立て直さないとかなり厳しいと思います。株を持っている方たちも心配でしょうしね。

“超割安”でも買えない理由 ― 日産株の投資判断をPBRで読み解く

社長だったら、日産の株どうします?
今、日産株が割安かどうかで言うと、「かなり割安」です。PBR(株価純資産倍率)という指標で見ると、0.3倍なんですよ。
あ、それって会社の資産に対してどれくらい評価されてるかを示す数字ですよね?
そうです。会社を解散した時に残る純資産=解散価値に対して、時価総額が何倍あるかを示す指標。
1倍を超えていれば「正常」とされますが、日産は0.3倍。
つまり“3分の1しか評価されていない”ということ。

これは明らかに低すぎる。
でも、それって赤字だから仕方ないってことじゃないんですか?
もちろんそれもあります。赤字というより「先行きが見えない」ことが大きいですね。来期(2026年3月期)も赤字がほぼ確定していますし。
社長も交代したんですよね?
はい。2025年4月からイバン・エスピノーサ氏という方が新社長に就任しました。
急に呼ばれたわけではなく、もともと日産の中でキャリアを積んできた方です。
その前の内田誠さんはホンダとの提携を模索していましたが、結局うまくいかず退任。
だから今回は内部昇格の形なんです。
なるほど。ゴーンさんの時みたいに、外部から強烈なリーダーが来るわけじゃないんですね。
そう。1999年のときは、親会社であるルノーから派遣されたゴーンさんが大ナタを振るった。今回は内部人事なので、どこまで思い切った改革ができるのかは未知数です。
日産も再建計画を出したんですよね?
はい。「日産リブーストプラン」みたいな名前で出してます。
内容としては工場の閉鎖と2万人規模のリストラ。
これで黒字化を目指すという方針です。
やっぱり今後は人気のある車とか、新しいブランドが必要ですよね。
そう思います。とはいえ、今のところ“沈みゆく船をどうにか浮かべる”という印象。一部では「エスピノーサ新社長がどこまでやれるか」に期待もあるようです。
株価って今どれくらいなんですか?
直近で359円ほどですね。1999年のゴーン改革後には一時的に上がりましたが、その後は右肩下がり。一時的に4%上昇したニュースもありましたが、今は転換社債で1兆円規模の資金調達を検討している段階です。
動きが激しいですね。
そうですね。とはいえ、僕の感覚では「今買う銘柄ではない」と思います。

わざわざここに大切な資金を投じる理由はありません。
なるほど。様子見ですね。
そう。今後の展開を見ながら判断すべき。PBRが0.3倍ということは、もし1.0倍まで回復すれば株価は3.0倍になる可能性もあります。ただ、それだけ“リスクがあるから安い”ということでもあるんです。
確かに、安いのには理由がありますもんね。
その通り。だから、半年に一度くらいのペースで決算をチェックしていくのがいいでしょう。
ニュースに惑わされるな ― 投資で大切なのは“数字を読む目”

今日取り上げたのは日産ですが、大事なのは「企業の見方」です。
IR資料や決算書をしっかり読み、現金やキャッシュフローの動きを把握する。
ニュースの見出しだけで判断しないことが大切です。
7,000億円の赤字とかリストラのニュースだけ見たら不安になりますもんね。
はい。けれど、実際には現金も潤沢にあり、営業キャッシュフローもプラス。一時的に大きな損失を出しているだけで、すぐ潰れるような状態ではありません。
今は冷静に数字を見て判断するべき時期なんですね。
そうです。そして、もし再びホンダとの提携交渉が再開したり、新しい人気車が出たりすれば、株価は一気に動くでしょう。その時こそがチャンスかもしれません。

確かに。
ただ現時点では「わざわざここに入る必要はない」。安定成長しているファーストリテイリングや、利益構造が強固な企業に資金を置いた方が安心です。
日産株はしばらく“見送り”ですね。
そうですね。ただ、大きな赤字を先に処理したことで、逆に“再出発の土台”は整った。これはマーケットでも一定の評価を受けています。
今日の話もすごく勉強になりました。
ありがとうございます。
株式投資では、数字を読み解く力と、経営者の言葉を見極める力、どちらも大事。
ニュースの見出しだけで惑わされないことが一番の学びですね。
今日は「日産の決算分析」というテーマでお届けしました。ありがとうございました。
また次回の記事でお会いしましょう。ありがとうございました。
