人のためにお金を使うと幸福度が上がる科学的根拠

「お金の使い方」と幸福感には、想像以上に深い関係があります。
とくに、誰かのために使ったお金が、自分にも前向きな変化をもたらすことが研究で示されています。
ここでは、他人への支出が脳や感情にどう影響するのかを紹介します。
心理実験で明らかになった幸福度の変化
カナダのブリティッシュコロンビア大学の研究では、参加者に現金(5ドルまたは20ドル)を配り、「自分のために使う」または「他人のために使う」ようランダムに指示しました。
その日の夕方に幸福度を測定した結果、他人のために使ったグループの方が一貫して高い幸福度を示したことが報告されています。
この結果は、「他人のための支出」が短期的な幸福感を高める可能性を示しています。
引用|Science「Spending Money on Others Promotes Happiness」
他人のための支出で脳が喜びを感じる
アメリカの神経科学の研究では、実際の慈善団体に寄付をするかどうかを選ぶ場面で、脳の反応をfMRI(血流の変化から働きを読み取る検査)によって調べています。
その結果、中脳や線条体といった「報酬系」と呼ばれる領域が、寄付を選んだときに活性化することが確認されました。
自分のために報酬を得たときと同様に、他人のためにお金を使ったときにも、脳は喜びを感じて反応していると考えられます。
また、人とのつながりや共感に関係するとされる内側眼窩前頭皮質(subgenual area)も、寄付の選択時にとくに強く反応していました。
寄付を積極的に選んだ参加者ほど、この部位の反応も強くなる傾向が見られています。
人のためにお金を使う行動は、脳にとっても前向きな体験として処理されているといえるでしょう。
引用|PNAS「Human fronto–mesolimbic networks guide decisions about charitable donation」
人のためにお金を使うなら月1万円からで十分

人のためにお金を使おうとしても、金額の目安が分からず迷う方も多いのではないでしょうか。
実際には、月1万円程度でも「何に使うか」を意識すれば、十分に意味のある行動になります。
月1回〜2回の「意味のある支出」から始めてみる
人のためにお金を使うとき、大切なのは金額ではなく「自分が納得できるかどうか」です。
例えば、感謝を伝えたい相手にちょっとした贈り物を選ぶ、自分が応援したい団体に寄付するなど、使う理由が明確であれば金額の大小は関係ありません。
月に1〜2回でも、「これはいい支出だった」と思える行動を重ねていけば、自然と気持ちにも前向きな変化が生まれてくるはずです。
人のためにお金を使う「余裕」をどうつくるか
誰かのためを思って使う支出も、自分の生活が苦しくなってしまっては長く続けられません。
まずは毎月の支出を「生活費・貯蓄・自由支出」に分け、自分にとって無理のない範囲を把握しておくことが大切です。
とくに生活防衛資金(生活費の3カ月〜6カ月分)を確保できていれば、一定の心理的余裕が生まれます。
そのうえで、余った資金の10〜20%を「人のために使う枠」として組み込めば、収支を保ちながら継続しやすくなるでしょう。
気負わずできる小さな行動から
人のためにお金を使うというと、特別な支援や大きなプレゼントを想像するかもしれません。
しかし、最初の一歩はもっと気軽なものでかまいません。
例えば、コンビニのレジ横にある募金箱に数百円を入れる、知人に小さなお菓子を渡す、感謝の手紙にちょっとした品を添える。
こうした行動でも、「ありがとう」と言われたり、相手の笑顔が見えたりすると、大きな満足感が残ります。
継続するためには「喜ばれた実感」があることが大切です。
続けやすく、身近な形から始めてみましょう。
人のためにお金を使うことで得られる長期的リターン

他人のためにお金を使う行為は、一時的な感情の満足にとどまりません。
続けることで人間関係が深まったり、自分自身の幸福感が高まったりと、目に見える変化が現れてきます。
こちらでは、人のためにお金を使うことで得られる長期的なメリットを紹介します。
信頼が積み上がり人間関係が深まっていく
人間関係では、無償の思いやりが少しずつ信頼につながっていきます。
例えば、ちょっとした気遣いや助け舟が相手の記憶に残り、「この人なら頼れる」と感じてもらえるかもしれません。
そうした積み重ねによって、困ったときに助けてもらえたり、仕事や紹介の話が舞い込んだりなど、思いがけない形で恩返しを受ける場面があります。
利害を超えた行動は、その場かぎりで終わらず、やがて信頼として返ってくる可能性があります。
自己肯定感が増しストレス耐性も向上する
誰かの笑顔に触れたり、「ありがとう」と声をかけられたりすると、自分の行動に意味を感じられるようになります。
自分の選んだお金の使い道が、目の前の人の役に立ったと実感できるほど、自信や前向きな気持ちが生まれていきます。
気分が落ち込んだときにも、「あのときのように、また誰かの役に立てる」と思えれば、気持ちを切り替えやすくなるでしょう。
小さな成功体験の積み重ねは、自信にもつながります。
健康面への好影響が報告されている研究もある
人のためにお金や時間を使うことは、心だけでなく体にも良い影響を及ぼすとされています。
例えば、ある研究では、年間200時間以上ボランティア活動に取り組んだ高齢者は、そうでない人に比べて高血圧の発症リスクが約4割低い傾向が示されました。
また、強い社会的つながりを持つ人は、そうでない人に比べて死亡リスクが約50%低いというメタ分析もあります。
いずれも金銭支出を対象とした研究ではありませんが、他者への貢献や社会との関わりが、健康意識や身体機能に良い影響を与える可能性を示唆しています。
見えにくいリターンではありますが、健康面も含めて人のためにお金を使う意味を捉えてみる価値はありそうです。
人のために使うお金はバランスが大切

お金の使い道が特定の相手に偏ると、関係が重たくなったり、自分が疲れてしまったりする場合があります。
例えば、家族や恋人にばかり気を遣ってお金を使っていると、「もっとしてほしい」と期待されたり、「やってもらって当然」と思われたりすることもあるはずです。
その一方で、使う相手を友人や社会的な活動にも少しずつ広げていけば、気疲れしにくくなります。
支出の対象に幅を持たせることで、ストレスを感じにくくなるでしょう。
金銭投資と人間関係への投資の共通点と相違点

人のためにお金を使うと、「見返りがなかったら損ではないか」とためらいを感じることもあるかもしれません。
ですが、この支出を金銭的な投資と同じように捉えてみると、見え方が変わってきます。
金銭投資では、利息や値上がり益など数値でリターンが明確に表れます。
一方、人間関係への投資は、感謝や信頼といった目に見えにくい形で返ってくるのが特徴です。
そのため、価値を実感しにくく、不安を覚える場面もあるでしょう。
ただ、人のためにお金を使う行為は一度きりで終わるものではありません。
例えば、誕生日に贈り物をしたり、困っている友人を食事に誘ったりといった支出を積み重ねることで、関係は少しずつ育っていきます。
リターンに時間差がある点では、金銭投資との共通点があります。
「すぐに成果が見えなくても、その支出には意味がある」
そう捉えることで、人のためにお金を使うことへの迷いが軽くなるはずです。
人のために使うお金は将来への投資になる

誰かに向けた支出は、幸福感の向上だけでなく、信頼関係の積み重ねや自己肯定感の育成にもつながります。
少額でも継続すれば心が満たされ、人間関係や健康面にも、時間とともにプラスの効果が期待できます。
見返りが見えにくいと感じたときは、「信頼という資産を育てている最中」と考えてみてください。
無理のない範囲で、月1万円から始めるだけでも十分に意味があります。
今日の小さな「与える支出」が、将来につながっていくはずです。