役員退職金の相場について

役員退職金の金額は、会社の規模や業種、役職と勤続年数によって異なります。
そのため、一律の相場はありませんが、一般的な支給水準を把握しておくことで、自社にとって適正な退職金額を検討する際の参考になります。
ここでは、企業規模・業種別に見る役員退職金の目安と、役職・勤続年数別の相場の目安を紹介します。
(2)役職・勤続年数別の相場の目安
(1)企業規模・業種別に見る役員退職金の目安
役員退職金は、企業の売上高や従業員数、業種などによって金額が異なります。
一般的には、売上高や従業員数が多い企業ほど役員報酬の水準も高くなり、それに伴って役員退職金の金額も大きくなる傾向があります。
また、業種によっても相場に差があり、設備投資が大きい傾向にある業種では、退職金の水準も比較的高くなる傾向があります。
一方、サービス業や飲食業など、利益率が低めの業種では、退職金の水準が抑えられることもあります。
例えば、中小企業の代表取締役(社長)の場合、勤続20~30年・最終報酬月額100万円程度を前提とすると4,000万~9,000万円程度がひとつの目安となります。
ただし、同じ業種であっても、売上規模、所得金額、従業員数、役員の職務内容や在任期間などは企業ごとに異なります。
そのため、業種別の平均額だけで判断するのではなく、自社と比較可能な法人の範囲を適切に設定することが重要です。
(2)役職・勤続年数別の相場の目安
役員退職金の計算に用いられる功績倍率は、一般的に役職が高いほど高く設定される傾向があります。
最終報酬月額を100万円とした場合の目安は、以下のとおりです。
| 役職 | 功績倍率の目安 | 勤続20年の場合 | 勤続30年の場合 |
|---|---|---|---|
| 代表取締役 | 2.0~3.0倍 | 4,000~6,000万円 | 6,000~9,000万円 |
| 専務取締役 | 1.5~2.5倍 | 3,000~5,000万円 | 4,500~7,500万円 |
| 常務取締役 | 1.5~2.0倍 | 3,000~4,000万円 | 4,500~6,000万円 |
| 取締役 | 1.0~2.0倍 | 2,000~4,000万円 | 3,000~6,000万円 |
| 監査役 | 1.0~2.0倍 | 2,000~4,000万円 | 3,000~6,000万円 |
上記は、「最終報酬月額 × 勤続年数 × 功績倍率」で算出した目安です。
実際の支給額は、会社の業績や規模、役員の功績などによって異なります。
例えば、最終報酬月額が100万円、勤続年数が30年、功績倍率が3.0倍の代表取締役の場合、役員退職金は次のように計算します。
100万円 × 30年 × 3.0倍 = 9,000万円
100万円 × 30年 × 3.0倍 = 9,000万円
役員退職金に関する基礎知識

役員退職金について、従業員の退職金と何が違うのか、よくわからないという方もいるのではないでしょうか。
役員退職金は、一般従業員の退職金とは仕組みや支給条件が異なります。
そのため、支給を検討する際は、基本的な仕組みをあらかじめ理解しておくことが大切です。
ここでは、役員退職金の仕組みや支給目的、一般従業員の退職金との違い、支給するための基本条件について解説します。
(2)役員退職金と一般従業員の退職金の違い
(3)役員退職金を支給するための基本条件
(1)役員退職金の仕組みと支給目的
役員退職金とは、取締役や監査役などの役員が退任する際に、会社から支給される金銭のことです。
取締役や監査役などの役員は、会社法上、原則として会社との委任関係に基づいて職務を行います。
一般従業員とは法的な立場が異なるため、役員であることだけを理由に、会社へ退職金の支給義務が生じるわけではありません。
ただし、使用人兼務役員など、役員であっても実態として会社の指揮監督下で働いている場合は、その業務について労働基準法上の労働者に該当することがあります。
役員退職金は法律上の支給義務があるものではありませんが、多くの企業では、長年にわたって会社経営に貢献してきた役員の功労に報いる目的で支給されています。
また、在職中の役員報酬を抑え、その一部を退職時にまとめて支給することで、法人税の負担軽減につなげるという側面もあります。
法人側は、適正な役員退職金を損金として計上することで課税所得を減らせるメリットがあります。
また、受け取る役員側でも、退職所得として扱われるため、同じ金額を給与所得として受け取る場合と比べて、税負担を軽減できる可能性があります。
(2)役員退職金と一般従業員の退職金の違い
役員退職金と一般従業員の退職金では、支給の根拠や金額の決め方、税務上の取り扱いが異なります。
一般従業員の退職金は、就業規則や退職金規程に基づいて支給されます。
一方、役員は会社と雇用契約ではなく、原則として委任契約の関係にあるため、退職金を支給するには定款の定めや株主総会の決議が必要です。
また、税務上の取り扱いにも違いがあります。
従業員の退職金は、一定の要件を満たせば原則として損金に算入できます。
一方で、役員退職金は、支給額が「不相当に高額」と判断された場合、その超過部分は損金として認められません。
そのため、役員退職金を決める際は、役職や勤続年数、会社の業績などを踏まえ、妥当な金額に設定することが重要です。
| 比較項目 | 一般従業員 | 役員 |
|---|---|---|
| 法律上の立場 | 雇用契約 | 委任契約 |
| 支給の根拠 | 就業規則・退職金規程 | 定款または株主総会の決議 |
| 支給義務 | 規程があれば支給義務が生じる | 法律上の支給義務はない |
| 損金算入 | 原則として損金算入できる | 適正額のみ損金算入できる |
| 注意点 | 規程どおりに支給する | 高額すぎると損金算入が否認される場合がある |
このように、役員退職金は一般従業員の退職金と比べて、会社が金額や支給条件を決める自由度が高い一方、税務上は「適正な金額であるか」が厳しく判断される点が大きな特徴です。

(3)役員退職金を支給するための基本条件
役員退職金を支給する際に押さえておきたい基本条件は、次の3つです。
・支給額に合理的な根拠があること
・所定の手続きを経ていること
まず、役員が実質的に退職したと認められる状況であることが前提となります。
例えば、代表取締役を退任して取締役になる「分掌変更」の場合でも、職務内容や権限に大きな変化がなければ、税務上は退職と認められない可能性があります。
また、支給額については、役員の在任期間や退任の事情、会社への貢献度、同業種・同規模法人の支給状況などを踏まえ、合理的な算定根拠を示せるようにしておく必要があります。
功績倍率方式は、その算定方法のひとつです。
さらに、定款の定めに従い、株主総会などで支給の決議を行わなければなりません。
定款または株主総会の決議によって、支給額の決定を取締役会へ一任する場合も含まれます。
これらの条件を満たしていない場合、税務調査で役員退職金の損金算入が否認される可能性があります。
そのため、支給を検討する段階から、金額の根拠と必要な手続きを整理しておくことが重要です。
役員退職金の計算方法と適正な支給額の決め方

役員退職金の金額は、原則として会社が決定できます。
ただし、税務上妥当な金額を算出する方法として、一般的に「功績倍率方式」が用いられています。
計算の仕組みを理解しておけば、支給額の根拠を整理しやすくなります。
ここでは、功績倍率方式の計算式と、計算に用いる各要素の決め方について解説します。
(2)最終報酬月額・勤続年数・功績倍率の決め方
(1)功績倍率方式による計算式と役職別シミュレーション
功績倍率方式では、次の計算式を用いて役員退職金を算出します。
役員退職金 = 最終報酬月額 × 勤続年数 × 功績倍率
計算式自体はシンプルですが、「最終報酬月額」「勤続年数」「功績倍率」をどのように設定するかによって、最終的な支給額は大きく変わります。
また、功績倍率方式を用いた役職別の支給額の試算例は、以下のとおりです。
| 役職 | 最終報酬月額 | 勤続年数 | 功績倍率 | 退職金額 |
|---|---|---|---|---|
| 代表取締役 | 100万円 | 30年 | 3.0倍 | 9,000万円 |
| 専務取締役 | 80万円 | 25年 | 2.5倍 | 5,000万円 |
| 取締役 | 60万円 | 20年 | 2.0倍 | 2,400万円 |
| 監査役 | 40万円 | 15年 | 1.5倍 | 900万円 |
(2)最終報酬月額・勤続年数・功績倍率の決め方
役員退職金は、一般的に「最終報酬月額」「勤続年数」「功績倍率」の3つの要素をもとに計算します。
それぞれの考え方は、次のとおりです。
最終報酬月額は、役員が退任する直前に受け取っていた役員報酬の月額を基準とします。
ただし、退任前に役員報酬を意図的に大幅に減額した場合は、減額前の報酬額を基準として判断されることもあります。
そのため、役員報酬を変更した際は、変更の理由や経緯を含めて記録を残しておくことが大切です。
勤続年数は、役員に就任した日から退任日までの期間をもとに計算します。
1年未満の端数を月単位で計算するのか、切り捨てるのかといった取り扱いは、会社によって異なります。
計算方法にばらつきが生じないよう、役員退職金規程であらかじめ定めておきましょう。
一般的な目安として、代表取締役は3.0倍、専務取締役は2.5倍、取締役は2.0倍程度とされています。
ただし、これらの倍率がすべての会社に当てはまるわけではありません。
会社の規模や業績、役員の職務内容、同業他社の支給水準なども踏まえ、適正な倍率を設定することが重要です。
この3つの要素を合理的に設定することで、税務上も妥当性を説明しやすい役員退職金を算出できます。
役員退職金の適正額を決めるポイント

役員退職金を支給する際は、金額の決め方に注意が必要です。
税務上のリスクを抑えるためには、適正額を算定し、その根拠や必要な社内手続きを整えておくことが大切です。
ここでは、役員退職金の適正額を決める際に押さえておきたい4つのポイントを解説します。
(2)同業他社や同規模企業の支給水準と比較する
(3)役員退職金規程を整備して算定根拠を明確にする
(4)株主総会や取締役会で決議して議事録を残す
(1)税務上不相当に高額と判断される基準を確認する
法人税法では、役員退職金のうち「不相当に高額」と判断された部分は、損金に算入できません。
損金とは、法人税を計算する際に経費として認められる費用のことです。
損金に算入できない金額があると、その分だけ課税所得が増え、法人税の負担も大きくなります。
役員退職金が不相当に高額かどうかは、同業他社や同規模企業における退職金の支給水準、功績倍率方式で算出した金額との差などを踏まえて、総合的に判断されます。
過去の裁判例では、一般的な水準を大きく上回る功績倍率を設定したケースや、退任直前に最終報酬月額を不自然に引き上げたケースなどで、損金算入が認められなかった事例もあります。
なお、功績倍率の上限を具体的に定めた法律上の規定はありません。
(2)同業他社や同規模企業の支給水準と比較する
役員退職金を決める際は、自社と同じ業種で、事業規模が近い企業の支給水準と比較することが重要です。
税務署が役員退職金を「不相当に高額かどうか」判断する際、類似する企業の退職金の支給状況が参考にされるためです。
法人税法上も、適正額を判断する要素として、同種の事業を営み、事業規模が類似する法人の役員退職給与の支給状況などが考慮されます。
そのため、自社の役員退職金が同業他社と比べて著しく高額な場合は、税務調査で金額の妥当性を確認される可能性があります。
(3)役員退職金規程を整備して算定根拠を明確にする
役員退職金規程を整備する目的は、退職金の計算方法や支給条件を明確にし、支給額の妥当性を説明できるようにすることです。
役員退職金には法律上の支給義務がなく、支給基準は会社ごとに定める必要があります。
規程がない場合、「なぜこの金額を支給したのか」という根拠を示しにくくなり、税務調査で支給額の妥当性を確認される可能性があります。
役員退職金規程には、主に次の内容を記載します。
| 記載項目 | 内容 |
|---|---|
| 記載項目 | 退職金の対象となる役員の範囲 |
| 内容 | 退任理由や支給できる条件 |
| 算定方法 | 最終報酬月額・勤続年数・功績倍率などによる計算方法 |
| 支給手続き | 株主総会などでの決議方法 |
規程を作成するだけでなく、実際の支給額や手続きが規程の内容と一致していることも重要です。
(4)株主総会や取締役会で決議して議事録を残す
役員退職金を支給する際に株主総会や取締役会での決議が必要な理由は、会社の正式な意思決定として承認されたことを明確にするためです。
株式会社では、原則として株主総会で役員退職金の支給を決議します。
ただし、株主総会では具体的な支給額を決めず、金額の決定を取締役会へ一任する方法もあります。
必要な決議が行われていない場合は、税務上、損金算入が認められない可能性があるため注意が必要です。

役員退職金にかかる税金と損金算入の仕組み

役員退職金は、受け取る役員本人だけでなく、支給する法人にも税務上の影響があります。
税金の仕組みを正しく理解しておくことで、税負担を抑えながら適切に支給しやすくなります。
ここでは、役員本人にかかる税金と、法人側の税務上の取り扱いについて解説します。
(2)退職所得控除額の計算方法
(3)法人側における税務上の取り扱い
(4)役員退職金を損金算入するための条件
(1)役員本人にかかる所得税と住民税
役員退職金を受け取った本人には、退職所得として所得税と住民税が課税されます。
退職所得は、給与所得や事業所得などのほかの所得とは分けて税額を計算する「分離課税」の対象です。
また、一定の要件を満たす場合は、退職所得控除を差し引いた後の金額を2分の1にして課税所得を計算します。
退職所得の基本的な計算式は、次のとおりです。
退職所得 =(退職金の収入金額 – 退職所得控除額) × 1/2
課税対象となる金額がほかの所得と分けて計算され、さらに2分の1に圧縮されるため、同じ金額を給与として受け取る場合と比べて、税負担を抑えられる可能性があります。
ただし、役員等勤続年数が5年以下の役員等が受け取る「特定役員退職手当等」には、2分の1課税が適用されません。
この場合の退職所得は、次の計算式で算出します。
退職所得 = 退職金の収入金額 – 退職所得控除額
そのため、役員等勤続年数が短い役員が高額な退職金を受け取る場合は、想定よりも税負担が大きくなる可能性があるため注意が必要です。
(2)退職所得控除額の計算方法
退職所得控除とは、退職所得を計算する際に退職金の収入金額から差し引ける控除額です。
勤続年数が長いほど、控除額も大きくなる仕組みになっています。
計算方法は、次のとおりです。
40万円 × 勤続年数
※計算結果が80万円未満の場合は80万円
800万円 + 70万円 × (勤続年数 -20年)
例えば、勤続年数が30年の場合、退職所得控除額は次のように計算します。
800万円 + 70万円 ×(30年 – 20年)= 1,500万円
退職金の収入金額が退職所得控除額以下であれば、課税対象となる退職所得は生じません。
(3)法人側における税務上の取り扱い
法人が支給する役員退職金は、適正な金額であれば、原則として損金に算入できます。
損金に算入することで法人の課税所得が減少するため、法人税の負担を抑える効果が期待できます。
ただし、役員退職金が税務上「不相当に高額」と判断された場合は、その超過部分を損金に算入できません。
損金として認められない金額は課税所得に加算されるため、その分だけ法人税の負担が増える可能性があります。
また、役員退職金を損金に算入する時期は、原則として株主総会などで支給額が確定した事業年度です。
実際の支払いが翌事業年度になった場合でも、一定の要件を満たしていれば、支給額を決定した事業年度に損金算入できることがあります。
そのため、役員退職金を支給する際は、金額の妥当性だけでなく、決議の時期や議事録の作成など、手続き面も適切に整えておくことが重要です。
(4)役員退職金を損金算入するための条件
役員退職金を損金に算入するためには、主に次の条件を押さえておく必要があります。
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| 条件 | 功績倍率方式などの合理的な方法で算定され、税務上妥当と認められる金額であること |
| 内容 | 株主総会や取締役会で支給額を決定し、議事録などの記録を残していること |
| 役員退職金規程に基づくこと | 支給条件や計算方法が規程に定められており、その内容に沿って支給されていること |
これらの条件を満たしていない場合は、税務調査で役員退職金の損金算入が否認される可能性があります。
特に、支給額の算定根拠が不明確な場合や、会社の規模、役員の職務内容、貢献度などに対して高額すぎる場合は注意が必要です。
そのため、役員退職金を支給する際は、事前に税理士などの専門家へ相談し、金額の算定根拠や必要な手続きを確認しておくことが大切です。
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役員退職金で期待できる節税効果と資金の準備方法

役員退職金には、法人と役員個人の双方に税務上のメリットがあります。
法人側では、適正な役員退職金を損金として計上することで、法人税の負担を抑えられる可能性があります。
一方、受け取る役員側では退職所得として扱われるため、給与として受け取る場合と比べて税負担を軽減できる場合があります。
ただし、こうした効果を得るためには、将来の退任時期や必要となる資金を見据え、計画的に準備しておくことが重要です。
ここでは、役員退職金の準備方法のひとつである法人保険の活用と、iDeCoを併用する際の注意点について解説します。
(2)iDeCoと併用する際の注意点
(1)法人保険を活用して役員退職金の原資を準備する
法人保険を活用することで、役員退職金の支給に必要な資金を計画的に準備できます。
保険契約の内容によっては、支払った保険料の一部を損金として計上できる場合があり、法人税の負担を抑えながら、将来の退職金原資を積み立てる方法として利用されています。
また、解約返戻金を受け取る時期と役員の退任予定時期を合わせて設計することで、退職時に解約返戻金を退職金の財源として活用しやすくなります。
ただし、法人保険の保険料をすべて損金として計上できるとは限りません。
2019年に法人税基本通達が改正され、2019年7月8日以後に契約した一定の定期保険や第三分野保険については、保険料の一部を資産として計上する取り扱いが設けられました。
例えば、保険期間が3年以上で、最高解約返戻率が50%を超える一定の契約では、最高解約返戻率などに応じて、支払保険料の一部または大部分を一定期間、資産として計上します。
法人保険の税務上の取り扱いは、保険の種類や契約日、保険期間、保険金の受取人、最高解約返戻率などによって異なります。
(2)iDeCoと併用する際の注意点
役員退職金とiDeCo(個人型確定拠出年金)を併用する場合は、それぞれの受取時期と退職所得控除の取り扱いに注意が必要です。
iDeCoを一時金として受け取る場合は、会社から支給される役員退職金と同様に退職所得として扱われ、退職所得控除を利用できます。
ただし、役員退職金とiDeCoの一時金を近い時期に受け取ったからといって、それぞれに同じ退職所得控除がそのまま適用されるわけではありません。
両方の受取時期や対象となる期間によっては、先に受け取った退職金の勤続期間や加入期間などを考慮して控除額が調整され、利用できる退職所得控除が少なくなる場合があります。
特に、役員退職金とiDeCoの一時金に対応する期間が重複している場合は、受け取る順番や間隔によって取り扱いが異なります。
先にiDeCoの一時金を受け取り、その後に会社の役員退職金を受け取る場合、役員退職金を受け取る年からさかのぼって9年以内に受け取ったiDeCoの一時金は、退職所得控除の調整対象になります。
実際に適用される退職所得控除額は、iDeCoの加入期間や役員としての勤続期間、受取額、受け取る順番などによって異なります。
役員退職金が税務調査で否認されるケースと対策

役員退職金の損金算入が税務調査で否認されると、法人税の追加納付に加えて、延滞税や過少申告加算税が発生する可能性があります。
こうしたリスクを抑えるためには、否認されやすいケースをあらかじめ把握し、必要な準備を進めておくことが重要です。
ここでは、税務調査で問題になりやすいケースや実際の裁決事例、否認を避けるための対策について解説します。
(2)役員退職金の損金算入が否認された裁決事例
(3)役員退職金の否認を防ぐための事前準備
(1)税務調査で否認されやすい役員退職金のケース
役員退職金について、税務調査で問題になりやすい主なケースは次のとおりです。
・退任直前に役員報酬を大幅に引き上げていた場合
・退任後も実質的に経営へ関与し続けている場合
特に、功績倍率や最終報酬月額が一般的な水準と比べて不自然に高い場合は、支給額の妥当性を詳しく確認される可能性があります。
また、役員退職金規程があるにもかかわらず、規程と異なる方法で計算・支給している場合も注意が必要です。
なお、役員退職金規程がないことだけを理由に、直ちに損金算入が否認されるわけではありません。
ただし、規程や計算資料を整備しておくことで、算定方法や支給手続きの合理性を説明しやすくなります。
株主総会の議事録が作成されていない場合や、支給額・支給時期・支給方法などの記載が不足している場合も、否認リスクを高める要因となるため注意しましょう。
(2)役員退職金の損金算入が否認された裁決事例
国税不服審判所の裁決事例には、役員退職金の適正額を判断する際、事業内容や規模が類似する法人を比較対象とし、その平均功績倍率を基準としたものがあります。
この事例では、請求人側が、代表取締役の功績倍率は3.6倍、取締役は3.3倍が妥当であると主張しました。
一方、審判所は、比較対象となる法人の支給状況などをもとに算出した平均功績倍率1.9倍を適用することが合理的であると判断しています。
また、代表取締役であることや、創業時から長年在籍していることだけを理由に、高い功績倍率が認められるわけではないことも示されました。
役員退職金の適正額を判断する際は、役職や在任期間だけでなく、会社への具体的な貢献内容や同業他社の支給水準などを総合的に考慮する必要があります。
この事例からもわかるように、「長年会社に貢献した」という理由だけではなく、支給額の算定根拠を客観的に説明できる状態にしておくことが大切です。
参考|裁決事例集No.74 146頁「裁決書(抄)」
(3)役員退職金の否認を防ぐための事前準備
役員退職金の否認リスクを抑えるためには、支給を決定する前から必要な資料や手続きを整えておくことが重要です。
まず、役員退職金規程を整備し、支給条件や功績倍率、計算方法などを明文化しておきましょう。
あわせて、同業他社や同規模企業の退職金水準を調査し、自社の支給額が一般的な水準から大きく離れていないかを確認することも大切です。
また、株主総会などで適切に決議を行い、支給額・支給時期・支給方法を明記した議事録を作成して保管しておく必要があります。
退任後も役員が会社に残る場合は、担当業務や経営への関与範囲、報酬水準などを明確にしておきましょう。
退任前後で職務内容や権限に実質的な変化があることを説明できれば、「退職の実態がない」と判断されるリスクを抑えやすくなります。
役員退職金を支給する際は、規程や議事録を形式的に整えるだけでなく、実際の職務内容や支給額と一致していることが重要です。
役員退職金を支給する際の手続きと支払いの流れ

役員退職金を支給する際は、支給額の算定だけでなく、必要な手続きを適切に行うことが重要です。
社内手続きや書類の整備が不十分な場合、税務調査で支給の妥当性を説明できず、損金算入が認められない可能性があります。
税務上のリスクを抑えるためにも、支給を決定してから実際に支払うまでの流れをあらかじめ確認しておきましょう。
ここでは、役員退職金を支給する際の手続きと支払いの流れについて解説します。
(2)株主総会や取締役会で支給を決議する
(3)議事録を作成して源泉徴収と支払いを行う
(1)役員退職金規程に基づいて支給額を算定する
まずは、役員退職金規程に定められた計算方法に基づいて、支給額を算出します。
規程に記載された功績倍率、最終報酬月額、勤続年数などを確認し、計算の過程を書面に残しておきましょう。
支給額をどのように算出したのか記録しておくことで、税務調査の際にも金額の妥当性を説明しやすくなります。
役員退職金規程がない場合は、退職金を支給する前に整備しておくことが大切です。
支給を決定した後に作成した規程は、税務上の根拠として認められにくくなる可能性があります。
そのため、将来の退職金支給を見据え、早めに規程を策定しておきましょう。
(2)株主総会や取締役会で支給を決議する
支給額を算出したら、株主総会などで役員退職慰労金の支給を決議します。
株主総会では、具体的な支給額まで決議する方法と、支給額の決定を取締役会へ一任する方法があります。
いずれの場合も、決議の内容を正確に議事録へ記録することが必要です。
議事録には、主に次の内容を記載します。
・出席者
・退職する役員の氏名
・支給額または取締役会へ一任する旨
・支給時期
・支給方法
必要な事項を記載し、適切な方法で作成したうえで保管しておきましょう。
(3)議事録を作成して源泉徴収と支払いを行う
株主総会などで決議し、議事録を作成した後は、役員退職金の支払いと源泉徴収の手続きを行います。
役員退職金は退職所得として課税されるため、会社は支払い時に源泉徴収税額を計算し、退職金から差し引かなければなりません。
源泉徴収した税額は、原則として支払月の翌月10日までに税務署へ納付します。
退職金を受け取る役員が「退職所得の受給に関する申告書」を会社へ提出している場合は、退職所得控除を適用して源泉徴収税額を計算できます。
一方、この申告書が提出されていない場合は、退職金の支給額に対して20.42%の所得税および復興特別所得税が源泉徴収されます。
その場合、役員本人が後日確定申告を行い、本来の税額との差額を精算することになります。

役員退職金に関するよくある質問(Q&A)

役員退職金については、退任後も会社に残る場合や、任期途中で退任する場合など、状況によって判断が分かれることがあります。
ここでは、役員退職金に関してよくある質問と回答を紹介します。
Q2. 分掌変更で退職金は支給できる?
Q3. 役員が任期途中で退任した場合は?
Q4. 役員退職金と相続税にはどのような関係がある?
Q5. 役員退職金は未払い計上できる?
Q1. 代表取締役を退任後も会社に残る場合はどうなる?
重要なのは、役職名が変わるだけでなく、経営上の権限や担当業務など、職務の実態が大きく変化していることです。
一方、退任後も代表者と同じような権限を持ち、報酬水準も大きく変わらない場合は、「実質的に退職したとはいえない」と判断される可能性があります。その場合、支給した役員退職金の損金算入が否認されるおそれがあります。
なお、退任後の役員報酬を退任前のおおむね50%以下に引き下げることは、退職の実態を判断する際の実務上の目安のひとつです。
ただし、報酬額だけで判断されるわけではありません。役職や業務内容、経営への関与状況なども含めて、総合的に判断されます。
代表取締役を退任した後も会社に残る場合は、退任前後の役割や権限、報酬水準を整理し、退職の実態を説明できるようにしておくことが大切です。
Q2. 分掌変更で退職金は支給できる?
分掌変更とは、役員の役職や担当業務、権限などを変更することです。
例えば、代表取締役から取締役への変更や、社長から会長への変更などが該当します。
ただし、税務上は役職名が変わったという事実だけでなく、「実質的に退職したといえる状態かどうか」が重要な判断基準となります。
例えば、分掌変更後も会社の重要な意思決定に関与している、以前と同程度の権限を持っている、報酬水準が大きく変わっていないといった場合は、実質的な退職とは認められない可能性があります。
一方、変更後の役員報酬が大幅に減少している、経営への関与が限定されている、担当業務や権限が明確に変わっている場合は、退職の実態があると判断される可能性があります。
分掌変更によって役員退職金を支給する場合は、役職の変更だけでなく、業務内容や報酬、経営への関与状況なども含めて、実質的な退職であることを説明できるようにしておきましょう。
Q3. 役員が任期途中で退任した場合は?
ただし、健康上の理由や自己都合、会社都合など、退任の理由によって適正な功績倍率の判断が変わることがあります。
自己都合による退任では功績倍率を低めに設定するケースがある一方、会社都合による退任や、役員としての功績が認められる場合は、通常の倍率を適用することがあります。
いずれの場合も、退任理由ごとの取り扱いを役員退職金規程に明記しておくことで、支給額の根拠を説明しやすくなります。
Q4. 役員退職金と相続税にはどのような関係がある?
みなし相続財産とは、亡くなった本人が生前に所有していた財産ではないものの、相続によって取得したものとみなされ、相続税の課税対象となる財産です。死亡退職金や生命保険金などが該当します。
ただし、相続人が受け取る死亡退職金には、「500万円×法定相続人の数」の非課税枠が設けられています。
受け取った死亡退職金がこの非課税限度額の範囲内であれば、その部分には相続税がかかりません。
また、生前に役員退職金を支給すると、法人の純資産が減少し、自社株の評価額が下がる場合があります。
そのため、役員退職金は事業承継における相続税対策のひとつとして活用されることがあります。
Q5. 役員退職金は未払い計上できる?
株主総会などで支給額が確定した事業年度に未払退職金として損金計上し、翌事業年度以降に実際の支払いを行う方法もあります。
ただし、未払い計上した役員退職金を長期間支払わずにいると、支給の実態や損金算入の妥当性を確認される可能性があります。
未払い計上を行う場合は、支給時期や支払い方法を明確にし、決議内容や議事録と整合する形で手続きを進めることが大切です。
まとめ

今回は、役員退職金の相場や適正額の決め方、支給時に必要な手続き、税務上の注意点について紹介しました。
役員退職金は、役職や勤続年数、退職時の報酬月額、会社への貢献度などを踏まえて、客観的な根拠に基づき算定することが重要です。
役員退職金を考える際は、税金だけでなく、退職後の生活資金や保有資産、事業承継なども含めて総合的に検討する必要があります。
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