持株会引き出し時にかかる税金の種類

従業員持株会から株を引き出したり、売却したりする際には、ケースによって以下のような税金が発生する可能性があります。
・奨励金への課税
・住民税・復興特別所得税も含まれるケースもある
ここでは3つの税金について紹介するので1つずつ確認しておきましょう。
株を売却したときに譲渡所得税
株式を売却して利益が出た場合、「譲渡所得税」が課されます。
譲渡所得税は、株の購入価格よりも売却価格が高かったときに発生する所得税であり、利益に対して20.315%の税率をかけた金額です。
例えば、持株会で1,000円で購入した株を100株保有しており、1,500円のタイミングで売却した場合、差額の500円×100株の5万円が譲渡所得となり、それに対して20.315%の税金がかかります。
なお、売却時には証券会社や会社経由で源泉徴収されることもありますが、特定口座を利用していない場合は確定申告が必要になるケースもあります。
奨励金への課税
持株会では、従業員の積立額に対して会社から「奨励金(インセンティブ)」が支給されることがあり、課税対象となります。
例えば「積立額の10%分」などが奨励金として支給され、これによって従業員は実質的に有利な条件で自社株を購入できるというメリットがあります。
しかし、奨励金は給与所得として扱われるため、支給時点で所得税・住民税が加算されるのです。毎月の拠出額に対して10%の奨励金が支給されている場合、給与と同様に課税対象として処理され、手取り額がそのまま増えるわけではありません。
例えば、毎月1万円を拠出し、奨励金10%が支給される場合、1,000円が「給与」として扱われます。
会社側は、この1,000円に対して所得税や住民税を源泉徴収します。所得税率10%、住民税10%の従業員であれば、税額は200円、800円が実質的な利益になるということです。
「奨励金は非課税でもらえるボーナス」と勘違いしている方も多いですが、課税対象になるので注意しましょう。
なお、会社によってはこの奨励金の課税処理を給与と一緒に源泉徴収していることもあり、個別に申告の必要がないケースもあります。
住民税・復興特別所得税が含まれるケースもある
株式の売却益に対して課される税金には、住民税および復興特別所得税も含まれます。
これらは譲渡所得税の一部として計算され、通常はまとめて「20.315%」として源泉徴収または確定申告で支払う形になります。
・所得税:15%
・住民税:5%
・復興特別所得税:0.315%
合計:20.315%
ただし、売却益が大きい場合や、複数の証券口座を使っていたり、損益通算をする場合などは、住民税や復興特別所得税の扱いも複雑になるため、税務上の確認が必要です。
また、税率が一律であるとはいえ、年収や他の所得状況によっては住民税の課税額に影響がでる可能性もあるため、念のため年間の収支を見通しておきましょう。
持株会とは?

そもそも持株会について理解していない方も多いのではないでしょうか。
ここでは持株会の仕組みや加入状況などを紹介します。
従業員持株会の仕組み
持株会とは、企業の従業員が自社の株式を定期的に購入・保有することを目的とした制度です。
多くの場合、給与天引きで自動的に積立てされる仕組みになっており、従業員の資産形成を支援すると同時に、会社への帰属意識や経営参画意識を高める効果も期待されています。
企業側も、安定株主の確保や従業員のモチベーション向上を目的に導入しており、日本の上場企業では広く採用されている制度です。
一般的には、従業員が毎月決まった金額を拠出し、持株会がその資金をまとめて自社株を購入します。
会社が奨励金(拠出額の5〜10%程度)を上乗せしてくれるため、個人で株式を購入するよりも有利な条件で資産形成ができます。
また、株式は名義を持株会名義で管理し、退会時に個人名義に変更して引き出すケースが多いです。
従業員持株会の加入状況
東京証券取引所が実施した「2023年度従業員持株会状況調査」によれば、2024年3月末時点で東証上場企業3,932社のうち、証券会社と契約して従業員持株会制度を導入している企業は3,273社にのぼりました。
これは、全体の83%程度の企業が従業員持株制度を活用していることを示しています。
さらに同調査によると、従業員持株会に加入している従業員は全従業員の40%ほどとなり、企業側・従業員側ともに持株会への期待値が継続的に維持されているといえます。
持株会のメリット

ここでは持株会のメリットを3点紹介します。
・配当金や収益を得られる
・少額で株式を購入できる
1つずつ確認しましょう。
奨励金で購入コストを抑えられる
奨励金で購入コストを抑えられるメリットがあります。
具体的な奨励金額は企業によって異なりますが、多くの企業では、従業員が拠出する購入資金に対して、会社が一定の奨励金(インセンティブ)を上乗せしてくれます。
この奨励金によって、同じ金額を拠出しても市場で直接株を購入するより多くの株式を取得できるため、実質的な購入コストを抑えることができます。
長期的に見れば、この差が資産形成に大きな影響を与える可能性もあるでしょう。
配当金や収益を得られる
持株会で保有している株式に対しても、通常の株式と同様に配当金が支払われるメリットがあります。
企業業績が良ければ、安定的な配当収入を得ることができ、持株を長期保有するインセンティブになります。
また、株価の上昇によって含み益が発生すれば、売却時に収益(キャピタルゲイン)を得ることも可能です。
このように、持株会を通じて「配当+値上がり益」の両方のメリットを享受できるのが大きなメリットの一つです。
少額で株式を購入できる
持株会は少額で購入できるケースが多いです。
通常の株式取引では、単元株(例えば100株単位)での購入が求められ、多くの資金が必要になります。
一方、持株会では、1,000円〜数千円程度の少額から拠出が可能で、給与天引きにより無理なく継続的に投資を続けることができるのです。
また、少額でも毎月積み立てることで、株価の変動を平均化する「ドルコスト平均法」の効果が得られるため、長期的にはリスク分散にもつながります。
投資経験がない人でも、気軽に資産形成を始められるのが大きなメリットと言えるでしょう。
持株会のデメリット

一方、持株会にはデメリットも3点挙げられます。
・会社によっては売却タイミングが制限される
・課税される場合がある
1つずつ確認してから購入を検討しましょう。
集中投資リスクが伴う
持株会を通じた投資は自社株に限られるため、自然と資産が一社に偏る「集中投資」となるリスクが伴います。
仮に自社株だけで運用していると、勤務先企業の業績が悪化すれば、株価下落による資産の減少だけでなく、最悪の場合は給与や雇用への影響も受けることになるでしょう。
これは勤務先と投資先が同一であることによるリスクであり、他の資産や投資手段と分散することが大切です。
もちろん、業績が右肩上がりになれば資産も増えやすくなりますが、持株会だけではリスクが高いので注意しましょう。
会社によっては売却タイミングが制限される
持株会は会社によっては、売却タイミングが制限されるデメリットがあるので注意しましょう。
一般的な証券口座であれば、好きなタイミングで株式を売買できますが、持株会では売却のタイミングが制限されている場合があります。
例えば、売却申請が月に1回など、会社や証券会社のルールに従う必要があります。
また、インサイダー取引防止の観点から、特定の期間(決算前後など)には売却が禁止されることもあります。
急に現金が必要になったときにすぐ引き出せない点には注意が必要です。
課税される場合がある
先ほどもお伝えしたとおり、持株会は課税される可能性が高いです。
持株会で得られる配当金や売却益には、通常の株式と同様に税金がかかります。
譲渡所得税や奨励金に対する課税など、税額は事前に計算しておかないと、思った以上に手残りが少ないと感じる人も多いです。
iDeCoやNISAなどとは異なり、持株会には節税メリットは少なく、課税面では他の投資と大きな差はない点も理解しておきましょう。
持株会の税金を減らす方法

従業員持株会で得た利益には、通常の株式と同様に税金がかかりますが、一定の工夫をすることで課税負担を軽減することも可能です。
ここでは、税金を抑える代表的な4つの方法を紹介します。
・繰越控除を利用
・売却タイミングを分散させる
・NISAなどの非課税制度と併用する
一つずつ確認しておきましょう。
損益通算を活用する
持株会で株を売却して得た利益(譲渡益)がある場合、他の株式投資や投資信託などで出た損失と「損益通算」することで、課税対象額を減らすことができます。
損益通算とは、株の売却で利益が出た場合、他の株で出た損失と相殺して、課税される利益を減らすことができる仕組みのことです。
例えば、持株会の売却益が10万円、別の株式での損失が8万円あれば、実質的に2万円の利益として計算され、課税額を抑えることができます。
この仕組みを使えば、複数の投資商品を組み合わせて、節税に繋げることが可能です。
繰越控除を利用
損益通算で控除しきれなかった損失は、「繰越控除」によって最長3年間まで翌年以降に繰り越すことが可能です。
繰越控除とは、株の損失がその年に使いきれなかった場合、翌年以降3年間にわたって利益と相殺できる制度です。
損益通算と似ていますが、以下のように違いがあります。
今年の損と得を相殺する制度のこと。
・繰越控除:相殺しきれなかった「損失」を、翌年以降3年間に持ち越して使える制度。
使いきれなかった損を来年以降に使う制度のこと。
例えば、ある年に30万円の損失が出て、当年に利益と相殺しきれなかった場合、翌年以降の利益から差し引くことができます。
持株会の株式も通常の株と同じ扱いなので、他の株式売却益と合わせて損失を活かす戦略が取れるのは大きなポイントです。
売却タイミングを分散させる
売却益が大きくなりすぎると、その年の課税額が一気に増える可能性があり、これを防ぐためには、株の売却タイミングを複数年に分散させることが有効です。
例えば、100万円の含み益がある株を一度に売却せず、50万円ずつ2年に分けて売却することで、それぞれの年の課税所得を抑えることができます。
特に大きな含み益がある場合は、複数年で計画的に現金化することが、結果的に手取り額の最大化につながることもあります。
NISAなどの非課税制度と併用する
持株会自体はNISA対象ではありませんが、持株会とは別に、NISAを活用することで全体の投資にかかる税負担を抑えることが可能です。
例えば、持株会とは別にNISA口座で投資信託やETFなどを運用し、非課税枠を活かすことで、トータルでの税引き後収益を高められます。
持株会では確定申告が必要?

持株会では確定申告が必要かどうか疑問に思う方も多いでしょう。
会社員の方は、源泉徴収によって納税手続きを進めておりますが、持株会での確定申告が必要かどうかは、売却したときの利益の有無や、他の所得との関係、源泉徴収の有無などによって変わります。
ここでは確定申告が必要なケースと不要なケースを紹介します。
確定申告が必要な場合
以下のようなケースでは、原則として確定申告が必要になります。
・特定口座(源泉徴収なし)で利益が出たとき
・年間20万円以上の利益があり、他の給与所得がある人
・損益通算や繰越控除を使いたいとき
確定申告をした方が良いケース
義務ではなくても、以下のような場合は確定申告をすることで税金が戻ってくる可能性があります。
・損失を繰り越して翌年以降に税金を減らしたい
・ふるさと納税や医療費控除など、他の控除も併せて申告したい
このように、確定申告をすることで節税につながるケースも多くあります。状況に応じて活用を検討しましょう。
持株会でよくある質問

従業員持株会はメリットも多い一方で、税金や運用に関して疑問を持つ方も少なくありません。
ここでは、よくある質問について紹介します。
まとめ

従業員持株会は、奨励金などのメリットを活かして手軽に資産形成を進められる制度ですが、引き出しや売却の際には税金が発生する点に注意が必要です。
譲渡所得税や奨励金への課税、住民税・復興特別所得税の仕組みを正しく理解し、損益通算や繰越控除などの節税策をうまく活用することで、手取り収益を最大化することができるでしょう。
持株会を効果的に活用するには、税制面での仕組みと対策を理解し、自分に合った運用計画を立てることが大切です。
しかし、自身で調べるのには難易度が高い上、会社の方は本業が中心で教えてくれないケースもあります。
その際は、ファイナンシャルプランナーなどの専門家に相談しましょう。
専門家であれば、税金や資産運用、退職後の資金計画など、あなたのライフプランに合わせた具体的なアドバイスを提供してくれます。
ココザスはファイナンシャルプランナーとして投資や資産運用のサポートを行っております。
また、お客様の資産状況や家族構成、将来的なライフプランから適切な投資計画のアドバイスもしています。
さらに税金アドバイスや余剰金作りのための家計の見直し、保険やローンなどについての相談も承っておりますので、ぜひ一度ご相談くださいませ。